「いい加減に機嫌なおせよ四神」
「別に機嫌なんて悪くない」
リビングに座っている四神にそう言うと、むっすりとした声で四神はそう答えた。
カルクの件は俺としてはしょうがないことだろうと思って黙っているつもりだったのだが、
夕食時、肉じゃがのじゃがいもに箸をドスドス突き刺さして小言で文句らしきことを呟く四神を
見てさすがにと思った。
「カルクだっていろいろあるんだろうし、しかたねぇだろう」
「だから、別に機嫌なんて悪くないってば」
「じゃあ顔背けるなよ…露骨に」
「別にそんなことない」
顔を背けたまま言い放つ四神を見て何を言っても無駄だろうなと判断し、部屋に戻る事にした。
「じゃあ俺はもう寝るからな」
それだけ四神に言って部屋のドアを開けると、不意に服の裾を何かに引っ張られる。
振り返るといつの間にか背後に四神が立っていた。
「……何だよ?」
俯いて下を見ている四神は何も答えずに服をつかむ力を強くした。
その表情は分からないが、たぶん辛そうな顔でもしているのだろう。
そのまま数分待っていると四神が口を開いた。
「少しだけ……一緒にいて」
かすれるような、その呟き。
ああ、何だってこいつはそんなことになるまで我慢するのだろうか。
「……ったく、少しだけだぞ」
「…ありがとう」
リビングに引き返し、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。
コップに注いだそれを飲み干して、四神に話しかけた。
「そういえばさ、何でそんなにカルクが一人で戦うのが嫌なんだ?」
「カルクは…お父さんの古くからの友達だもん。小さい時は……何度も遊んでもらったし」
父親の友達。
死んでしまった父親の、友達。
「お父さんは死んじゃった。だから知ってる人には……あまり死んで欲しくないの」
世界のあらゆるものの死を識っている四神は、だからこそ死というものに恐怖している。
だから、親しい者の死は見たくない。
だから、自分がそうならないように行動しないといけない。
そう言った思いが読み取れた。
無言で四神の背後に回りこみ、後ろで左右にわけている髪を引っ張った。
「痛い! ちょっと武! 痛いってば!!」
四神が叫ぶが気にせずに引っ張り続ける。
と、そこへ四神の裏拳が見事にこめかみに当たった。
「痛い…って言ってるでしょう!! 何するのよバカ!!」
少し涙目になっている四神が息を荒げて俺に怒鳴る。
裏拳の当たった場所をさすりながら、四神に告げてやる。
「ほれ、まだまだ元気じゃねえか四神」
「――――――え?」
「死なせたくないんならカルクがどう言おうが勝手に行動したらいいだろ。違うか?」
その言葉は四神に伝わったのかどうか
「…違わない」
「ならそんなへこんでる場合じゃないぞ」
俺にはまったくわからない
「……うん」
「俺は一応カルクの立場も分からないでもないからこれ以上は何も言わないけど、俺は四神 初美と
契約を結んだ協力者だ。四神が何かするなら手伝ってやる」
でも――――――
「うん!」
「じゃ明日からどうするんだ、四神?」
そんなことこの笑顔の前にはどうでもいいことだろう。
「武」
「ん?」
「ありがとね!」
本当に、どうでもいいことだ。
現在、午後十時二十分。
魔法使いと傀儡師が戦うまで、あと―――――――二十四時間四十分。
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