「うわあああっ……!!」
仲間をナイフで切りつけている本人が怯えた声をだす。
間違いない、最近起きている事件と同じだ。
いつでも抜刀できるようにし、駆け寄るとナイフを持った男はこちらに振り返り走ってきた。
手に持ったナイフを高々と振り上げ走る男のその顔は自分の身体がどうなったのかわからないと
でも言いたげな不安そうな表情をしている。
だが、武器を持って襲い掛かられた以上はこちらも油断するわけにはいかない。
ナイフが振り下ろされると同時に抜刀。
本来なら相手を弾けるつもりだったのだが、相手の力は尋常ではなかった。
ナイフと刀という武器の差を埋めてなお、余るくらいの怪力でこちらを押してくる。
――――その男の後ろにきらりと光る線が見えた。
このままでは押し切られるということもあり、刀を横にして受け流す。
通り過ぎる男の身体を見送って、その後ろに見えた光る線に刀を振り下ろす。
線は透明な糸だった。
男の身体の両手足に頭と背中の六ヶ所にそれは張り付いていた。
刀の一撃を受け止めた糸は力を込めても斬れない。
ならば、殺す。
イメージを練り上げ、刀に力を込める。
それだけで糸は死に、ぷつりと音をたてて切れる。
途端男は、それこそ糸が切れたかのように地面に倒れこんだ。
『武…これってやっぱり』
「ああ、例のだろうな。それよりナイフで切られた奴らの傷を―――――」
「その必要は、ない」
声の方を見ると、暗闇の向こう、糸が伸びてきていた方向に一人の男がいた。
金髪に青色の眼で茶色のスーツを着た男は近くに横たわっている男を足蹴にした。
「いろいろ騒がれると面倒でね、悪いが彼らには死んでもらった。よってもう彼らを気にする必要はない」
言って肩をすくめた男は黒い皮の手袋をしている右手を上から下へと振る。
すると、手袋の指先から先程と同じ糸が伸びていた。
「さて、ただ腕のいい人間というなら気にはせんが、ダイヤモンドから作られたこの糸"不絶"を刀で斬る
となると少々興味深い。悪いが少し観察させてもらおうか」
「それこそ必要ないだろう」
背後からの声に振り返るとそこにはカルクが立っていた。
「君の相手は僕だけなんだろう?なら彼らはどうでもいいはずだ。そうだろう…玖劉 焔(くりゅう ほむら)?」
「ああ、そうだ魔法使い。私はお前さえ殺せればそれで、いい」
男の顔を見る。
玖劉 焔と呼ばれたその男の眼は酷く歪んでいた。
さっきまでの落ち着いた顔など微塵にも感じさせないくらいに。
「だが、お前を殺すのは今じゃない。明日の夜に勝負だ、場所はそちらが決めて連絡をつけろ」
手で顔を押さえながら必死に自分に言い聞かせて焔は告げた。
「分かったが、いいのかい? 僕に場所を決めさせて、僕は―――――――」
「問題ない。いや、お前が得意な場所でお前を殺さねば意味がないのだからそうしなければいけない。
せいぜいがんばって作り上げろ、"結界の魔法使い"」
それだけ告げると焔は姿を消した。
カルクが後ろからこちらに歩いてくる。
「こういう偶然もあるんだね、不思議なもんだ」
そう言ってそのまま側で気絶していた男を担ぎ上げ、歩き出す。
「おい、カルク!」
「僕は彼をどこか適当なところに置いてくる。君たちも遅刻したくなければ早く帰るんだね」
「そうじゃなくて!」
「…言っただろう、これは僕と彼の問題なんだ。君たちの心遣いはありがたいが君達は巻き込めない」
そのまま背を向け、決して振り返らずにカルクは歩いていった。
NEXT
TOPへ