放課後。
 武と初美はカルクのいる職員室へ向かって歩いていた。

「そういえば皇君元気そうね」

 ふと思い出したように初美が武に話しかける。

「ああ、本人も分身のことは何も知らないみたいだからちょうどよかったな」

「うん。それに魔物も最近は出てこないから平和だし」

 皇の一件から夏休みの間、何日かは魔物が現れるという日もあったが、武たちが人を襲う前に
 殺していったので世間からはそろそろ安全だなという雰囲気が漂っていた。

「ね、今日の夕飯は何にしよっか?」

「まかせる」

「そんなきっぱり言わないで少しは考えてよ〜」

 「一人じゃそんなにメニューなんて出てこないんだから」と言いながらもしっかりと考え始める
 初美を横目で見ながら武は考える。
 彼女と出会ってもう二ヶ月ほど経つ。
 それはつまり死神としての活動を二ヶ月ほどしているということだ。
 だが、死神の能力を有する彼女はそれこそ普通の人間だった。
 夏休み中に暇だからとあちこちへ連れまわさせるような普通の人間。
 もちろん沙理縞に聞いたときに抱いた彼女へのイメージは今では全然変わっている。
 一緒に暮らしているせいというのもあるだろうが、とにかく変わった。
 彼女は普段は明るく気のきく性格で、最初はそのイメージがあった。
 が、最近になって分かった事だが彼女は何となく寂しがりやなところがある。
 普段明るいのもきっとそのせいだろう。
 と、そこで初美が武の視線に気がついた。

「な、なによ?じーっとこっち見たりして」

「いや、四神と会ってもう二ヶ月も経ってたんだなって思ってさ」

「そういえばそうねって、カルクだ」

 初美が指で示した先にはカルクが二人を待つように立っていた。
 カルクは二人に気づくと片手をあげる。

「やぁ、待ってましたよ」

「放課後にわざわざ呼び出すほどの話なのカルク?」

「ええ、ま、ここじゃあ何だし静かなところで話そうか」

 そう言って歩き出すカルクの後についていって二人は例の秘密部屋へと入った。

「で、こんなとこで話そうってのは何なんだ?」

 武と初美はソファーに、カルクは置いてある椅子に座る。
 カルクは相変わらずにこやかな顔で、でも唐突に話を切り出した。

「実は昼休みに初美ちゃんたちと話していた事件なんだけど」

「あの、勝手に身体が動いて―――――っていうの?」

「それ。それなんだけど実は僕は犯人に心当たりがあるんだ」

「え?」

「そうなの?」

 カルクの突然の発言に二人は眼を丸くした。
 カルクは一度だけ頷いた。

「知り合いに一人ああいう事件を起こせる人物がいてね。ついでにその人物はたぶん、僕を憎んでる」

「じゃあ、その犯人はカルクを追ってきたってことか?」

「そうだろうね。その人物は男なんだけど、彼が事件を起こせば僕は嫌でも気がつくし誘き出すには
もってこいだからね」

「じゃあ、皆でそいつ捕まえよ―――――」

「二人を呼んだのはそのことで話したかったからなんだ。悪いけどこの件に関しては僕だけでやらせてもらうよ」

「な、何で!?いいじゃない。カルクが弱いとか言わないけど、一人よりは皆の方が―――」

「うん、わかってる。だけど彼は僕を狙ってるし、狙われる理由がある。だから僕は彼と戦わねばならない
義務がある。初美ちゃんはこの手の事件があと二、三件起きたら調べようと思ってたんだろう?」

 武が初美を見ると、初美は小さく「うん」と呟いた。

「だから早く言っときたかったんだ。これは僕と彼の問題だ、君たちまで巻き込むわけには…いかない」

 にこやかな表情だけそのままで、声だけはしっかりとした意思のこもったものに変わっていた。
 武と初美が何も言えないでいると、カルクはいつもの声で話しかけた。

「そうゆうことだから。だいたい、いつ魔物が出るともわからないのに全員が一つのことに集中するわけに
もいかないだろう? じゃあ書類の整理があるから僕は行くよ。時間をとらせて悪かったね」

 そしてそそくさとカルクは部屋から出て行った。

「ねぇ武、どうしよう?」

「つってもなぁ…」

 正直武は困っていた。
 初美の言いたい事―――どうにかカルクに協力しようということ―――も分かるのだが、カルクの男と男の
因縁は当人どうしで決着を、という気持ちも分かるからだ。

「まぁ、カルクに協力はもちろんするけど…優先すべきは魔物の方でってとこだな」

 悩んだ末、当たり障りの無い答えを返したが初美は納得したようだった。

「やっぱり…そうよね。うん」

「とりあえず家でゆっくり考えようぜ」

「こんなとこじゃ考えまとまらないし…帰ろっか」

「ああ」

 そして二人はソファーから立ち上がり部屋を立ち去る。
 二人が部屋から出て歩いていくと、近くに隠れていたカルクが姿を見せる。

「あの二人は…どうしたものかな」

 どうせ止められないだろうと、知っていながらも二人の後ろ姿を見てカルクは呟いた。


 呟かずには、いられなかった。


NEXT
TOPへ