「まったく学校って奴は済ましても済ましても書類が出てくるんだからなぁ」
カルクは愚痴はこぼしつつ、でもノートパソコンのキーボードを叩く指は止めないでいる。
その時窓が叩かれる音がした。
振り向くと窓際に一羽の小鳥が丸められた紙切れをくくり付け止まっていた。
窓を開け、その紙をくくり付けている紐を解くと内容に眼をとおす。
書かれていたのはただ一文。
――――場所を指定せよ。
「はぁ、まったくそんなのどうしろって…ってああ、なるほどね」
よく見ると小鳥の頭には一本の透明な糸が繋がっていた。
カルクは自分の机にあるメモ用紙に場所を書き、丸めて小鳥にくくり付けた。
すると小鳥は勢いよくその場から飛び去る。
「一体どうやって連絡をとるつもりかと思えば…さて、書類書類」
小鳥を見送ってカルクは書類の始末に戻った。
夕暮れの学校。
恐ろしく無人のその学校。
カルクが戦いの舞台に指定したのは、まさにそこだった。
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「そういえば聞きそびれてたんだけど、魔法使いって何なんだ?」
俺の問いに四神が夕食の準備の手を止める。
「いきなりどうしたの?」
「いや、カルクって魔法使いなんだろ? でもそれって結局何なんだ?」
「そのまんまよ。一番わかりやすいのはゲームみたいな感じ」
「つまり呪文唱えて火とか風とか生み出すってことか?」
「そうそう、それ。そんなものよ」
と四神は気楽に言うが、にわかには信じがたい。
魔物だとか異常者だとかの非日常と関わっているとはいえども、そんな光景はどうしても考えられない。
考えたところでどうしてもそれはリアルさに欠ける。
「ま、カルクは結界の専門なんだけどね」
「結界?」
「そ。いろいろな結界の魔法を使えるのよカルクは」
「それって……勝負で勝てるのか?」
結界と言えば何かを守るためのものだろう。
いくらそれがたくさん使えるとはいえ、それで勝負に勝てるのかどうかは怪しい。
「"結界の魔法使い"なんて知る人には呼ばれてるみたいだし、それなりには戦えるんじゃないかな」
「そうか」
「うん。心配なのは分かるけど戦いの前は落ち着かないと…ね?」
そう語る四神の声は少し震えていた。
「それはお前の方だろうが。料理代わってやるから休んでろ」
無理矢理四神をキッチンから追い出す。
追い出す時に触れた身体はやはり、震えていた。
「ごめんね」
「謝るくらいなら無理するな」
「…うん」
「ま、俺たちが助けに行けばカルクだって安心だろ」
「そうよね」
「ああ、だから休んでろ」
「うん。武の料理を楽しませてもらおっと!」
「あまり期待はするなよ」
不気味なくらいに顔をにやけさせる四神を横目で見ながら、俺は包丁を手にした。
夕暮れ。
戦闘まであと―――――――――五時間。
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「学校に来い…とはな」
使いにさせた小鳥から受け取ったメモ用紙にはそう書かれていた。
そのメモを握りつぶし、捨てる。
もはや手に馴染んだ黒の革の手袋をはめて、椅子に座らせてある女性に近づく。
その髪の滑らかさを
その肌の感触を
その眼の輝きを
その、美しさを
確かめ、満足し、糸を繋ぐ。
「さぁ、復讐に行こう」
糸で指令を出された女性は抗うことなくそれに従い動き出す。
焔もその後について歩き出した。
カルクが指定した学校まではそれほど離れてはおらず、十分程で辿り着いた。
「ふむ、少し早かったか」
校門の前で腕の時計を見て焔は呟く。
だが、復讐ができるということで身体は既に興奮していた。
「っく…!! 早く…早く来い……魔法使い……!!」
「ま、君のことだから早く来るんじゃないかなとは思ってたんだ」
正面の校舎の玄関から声がした。
どれだけ距離があろうと聞き忘れるはずのない、声が。
復讐の相手である者の声が。
「来たか…魔法使い」
「おいおい、勝負まではまだ時間があるぞ。少しくらい話そうとは思わないのかい?」
「お前と話すことなど何も無い」
「そうかい。それじゃあ、おいで。君のくだらない復讐に少し付き合うとしよう」
そう言うとカルクは校舎の中へと駆け出した。
「……殺す」
それだけを呟いて焔は校門を乗り越えた。
夜。
戦闘まであと――――――――三十分。
が、予定変更。
午後十時三十分――――――――――戦闘開始。
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