「なぁなぁ、そこのお兄さ〜ん」
昼でも人気のない裏路地。
近くの不良の溜まり場でもあるそこで、一人の男が数人の不良に囲まれていた。
青色の眼に金の髪は長いため後ろで束ねている。
長身で体格も程よい肉付きのよいその男は茶色のスーツを着込んでいる。
片手にはやや大きめのトランクを携え、男を囲む不良たちの視線はもっぱらそれに集中している。
「俺たち今金が無くってさぁ〜ちょっと恵んでくんない?」
「何ならそこのトランクでいいぜぇ〜」
ひっひっひっと不良一同が笑い出す。
その様子を見て、関心がなさそうな顔をしていた男が呟く。
「くだらん下衆どもが…」
そしてポケットから黒い革の手袋を取り出し右手にはめる。
「あ、今何つったテメエ?!」
「自分の立場わかってんのか、コラ!」
口々に怒鳴り、ナイフを取り出す。
それでも男は眉一つ動かさず不良を見据える。
「立場が分かっていないのは貴様達の方だ下衆」
吐き捨てるように男が告げると、不良たちは我慢の限界に達した。
「この、野郎!!」
周囲の一人が叫ぶのと同時数名がナイフで切りかかる。
それが男の身体に突き刺さったと思った瞬間――――――
「え?」
切りかかった数名のうち一人が間の抜けた呟きをあげる。
次の瞬間には首から血を噴き出し倒れていた。
同時その他の仲間も次々と血を噴き出して倒れる。
「お前…何してんだよ!!」
残りの数名が信じられないという感じで叫ぶ。
切りかかった男を殺したのは、同じく切りかかったうちの一人だった。
「お………俺……!?」
切り殺した当の本人ですら自分が何をしたのか理解できていない。
そして、それを理解する間もなく身体が動き出す。
狭い裏路地で人間とは思えない動きでもって次々と仲間を切り殺す不良の一人
辺り一面が血の海と化し、仲間を全員殺してようやく不良の一人は動きを止めれた。
「ひ……あ……ああ……!!」
自分の意思でないとはいえ、仲間を全員殺した不良の男は既に正気を失いかけていた。
いっそ正気を失えた方が楽だったのかもしれない。
「さて、静かになったところで一つ聞きたいことがある」
「ひっ!」
声はすぐ後ろ。
振り返ると、右手をこちらに真っ直ぐ伸ばした先程の男が向かってきていた。
真っ直ぐ伸びた右手の先からきらりと光る何かが見えた気がした。
男は左手で懐から一枚の写真を取り出すと不良の男にそれを見せる。
「この男を知っているか?」
拒否することもできず、その写真を見る。
そこには渋めの緑色の髪で線というくらいの細眼の二十代後半と思える男が写っていた。
「名はシーウェルン=カルク=タスナという。心当たりはないか?」
「話せば助けてくれるのか……?」
聞いて唾を飲む。
この男が俺になにかして仲間を殺させた証拠など無いが、状況的にそうとしか思えない。
男は少し考えて告げた。
「話せばお前の先は保証してやる。だから話せ、この男について何か知っているのか?」
「近くの学校の付近で何回か似たような男を見たことがある」
「どこの学校だ?」
不良の男は詳しい場所を事細かく眼の前の男に話した。
男はそれを聞くと簡単に頷き、眼の前の不良に背を向ける。
不良の男は、仲間が死んだということや、この男が何者かということよりも、ただ助かったという
気持ちで一杯だった。
情けなくその場にへたれ込む。と―――
「ああ、言い忘れていた。俺が保証してやれる先だがな、俺が保証してやれるのは死だけだ」
プツッ、ゴキリ
何かが切れた音と、何かが折れた音。
それだけを聞いて不良の男の意識は途絶えた。
右手の手袋を脱いでポケットにしまい手足を有り得ない方向に曲げて倒れる男を一瞬だけ見て男は歩き出す。
「今回は必ず殺してやる――――――魔法使いめ」
知らずトランクを持つ手に力が入った。
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