「魔法使い…だと?」

「ええ、とりあえず今日のところはそこの二人に死なれては困るので助けに来た、ってとこです」

 微笑みは崩さぬまま魔法使いと名乗った男は、俺たち二人に視線を送った。
 その視線を受けてふと気づく。
 いつの間にかあれ程動かなかった体が自由になっていた。
 四神 初美を見ると、彼女も体が自由になっているみたいだし、精神の破壊とやらも無くなったらしい。
 立ち上がっていたが、ふらふらとしていた。

 その光景に驚く者がただ一人。

 他でもない俺たちの眼の前にいる皇だった。

「馬鹿な…っく! 動くな!!」

 信じられないと顔で語り、怒鳴る皇だがその言葉を聞いてもさっきみたいに動けなくなるということは無かった。

「簡易的にですがこの周囲に結界を作らせてもらいました。この中ではいかにあなたといえでも
誰もどうすることもできませんよ?」

「貴様……!!」

「さて…どうしますか? 能力は使えない、死神は動き出した、形勢は不利だと思いますが」

 眼の前の魔法使いを名乗る男と俺と四神 初美を交互に見て、自分に勝ち目が無いと判断したのだろうか
皇は魔法使いを名乗る男の方に向かって走り出した。
 自分の真横を通り過ぎる皇に何もせずそのまま逃がした男は足音が完全に聞こえなくなってから満足そうに
したのち、息を吐いてこちらへと歩み寄ってきた。

「やぁダイジョウブかい? なかなか危なかったね」

「あんた…何のつもりだ? 何で俺たちを助けた?」

「…ふむ、それに答えるよりまず彼女を寝かせなくていいのかな?」

 男の台詞に四神 初美の方を向くと同時に四神 初美が俺に身体を預けてきた。

「おい、四神!!」

「ごめ…ちょ…と、やすめ…ば…」

「大丈夫か?!」

「どうする、手を貸そうか?」

 相変わらずにこやかな男を睨みつける。
 そしてゆっくりと質問をした。

「……あんたは俺たちの味方か?」

「敵なら?」

「相手になるさ」

 きっぱり告げると男は困ったように笑った。

「ふぅ、安心したまえ、僕は味方だよ。四神 初美の父親の未来良(みきよし)とは友人でね、彼が死んで
その娘が死神として活動していると聞いて様子を見に来た所なんだ」

 四神 初美を見ると、こっくりと頷いた。
 どうやら―――――信用してもいいらしい。

「わかった、手伝ってくれ」

「ああ」

 男は安心したように笑うと、四神を運ぶため俺とは反対側に回り彼女に肩を貸した。



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 四神 初美を部屋のベットに寝かして俺と魔法使いを名乗る男はリビングで向かい合ってテーブルに座っていた。

「名前はさっき名乗ったとおりだ好きなようによんでくれればいい」

「じゃあ…カルク」

「それで構わないよ。よくそう呼ばれるしね」

「わかった。で、四神は寝かしとくだけでいいのか?」

「ああ、半日もすれば起きれるよ。僕としては彼女より君の方が心配だけどね」

「え?」

「頭痛とか、しないかい?」

 ドキリ、とした。
 実は四神 初美を運んでいる途中で一回ズキリと頭に痛みが走っていた。
 でも一瞬のことだったし、顔にはださなかったから気づいていないと思っていた。
 俺が驚いた顔をしているとカルクはやれやれという素振りを見せた。

「やっぱり、君は死神についてちゃんと把握していないんだね? まぁ父親がきっかり伝える前に死んで
しまったのだから娘が他人に完全に伝えれるとも思えなかったけど」

 語るだけそう語りカルクはため息をついた。

「よし、君にいろいろ説明してあげるよ。君だってある程度の理解をしておかないと困ることになる」

「そう…だな。ああ、教えてくれ」

「うん、どこから話そうか。まず死神についてだけど、君だって彼女からある程度は聞いてるだろうけど
死神ってのは世界が己のバランス保つために殺す、減らすといった"世界の死"の根源と繋がった者を言う。
だから世界のあらゆるものの死を識っている、故に何でも殺せる」

「そこは聞いたことある。けど、その世界の死ってのがイマイチ分かんないんだ」

「つまりね、世界というものを一固体と考えるんだ。人間だって何かを壊したいと思う時があるだろ?
もちろん何かを作りたいっていう反対の思いを持つときだってある。それを世界に当てはめればいい。
世界の場合はバランスを基準にするけど、作ったり壊したりと人間みたいな考えがある、ってね」

「…つまり世界が何かを壊したいっていう思いに四神は繋がっているってことか?」


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