「そういうところかな。で、君の頭痛のことだけどね、死神の能力っていうのはさっきから言ってる
けど世界の死を識っているからこそ使えるんだ。でも君は世界の死なんて識らないだろう? 何かの事故で
他の人より死を知っているから最低限の能力が使えるというところだ。だから君が使える能力以上を
使えばその反動が身体にやってくる、さっきの頭痛みたいにね。君の言葉で言うなら四神は世界の壊
したいという思いに繋がってるから能力が使えるけど、君の場合は無理矢理自分から世界の壊したい
という思いに繋げてるだけだから使える能力に限度があってそれ以上を使うと身体に反動がくる…
って感じか」
「つまり俺が能力で殺せるものには制限があるってことだな?」
「恐らく生物あたりが限界だろうね。君が知っている死はあくまで人間のソレなんだから。それ以外の
ものだって能力上は殺せるだろうけど頭痛か、それ以上の反動がくることになるだろうね」
そして差し出しておいたお茶を飲むカルク。
とりあえずその間に聞いた話と自分の口にした台詞とを整理してゆく。
その整理が充分に済むのとカルクがお茶を飲み終えるのとは同時だった。
「そろそろ整理できたろうから次の話だ。まぁ現時点で問題といえば皇のことだね」
皇と聞いて思わず身を乗り出しそうになった自分を抑える。
「皇の家系は四神の家系のように珍しい家系なんだ。人間ってのは一つの事柄でのみ極めるということが
できるけど、ただそれだけだ。でも皇は複数の事柄を極めようとしたんだ。そういった家系は無いわけで
もない。事実、一つの身体にいくつかの人格を宿す多重人格者を生み出していろんな面で活躍できる人間
を作り上げようとしたものもある」
「もある…って皇の家もそうじゃないのか?」
「皇はね、少し特別でね、こう考えたんだ。多重人格でも確かに複数の事柄を極められるが、元となる身体
が一つだけでは互いの足を引っ張ることになる、と。例えば戦闘を極める人格が使う身体と学問を極める
人格が使う身体は必要なものが違うだろう? だから皇は人格ではなく個人そのものを複数つくりだそうと
考えた。でも普通に考えてそんなことできるはずがない」
「でも―――――」
「できているね。皇は普通ではできないから、魔法使いに協力を得たのさ。魔法使いはその個人の分身を
生み出し一つに統合させる魔法を皇にかけた。これにより皇は一人で複数の事柄を極めることができる人間
を作り上げることに成功して、同時に異常とされた。その魔法は最近ではその効力が薄れてきているとは
言えど解ける事は無い………これが皇の家系さ」
誰よりも純粋に理想を追いかけ実現させたのにそれを異常と呼ばれるなんて哀れだけどね、とカルクは付け足した。
ああでも、それなら―――――四神の父親が書いたノートの内容も納得できる。
「つまり四神の父親が殺したのは分身だったのか」
その独り言のような呟きに、カルクはうんうんと頷いた。
そしてそのまま席を立つ。
「ま、魔法使いとかの説明もしないといけないんだろうけど今のところはしなくても大丈夫だろう。
明日にでもまた来るからその時に補足説明と対策を練るとしよう。皇も今日は大人しいだろうから、
ゆっくり休むといい」
そう言われて外を見る。
ちょうど、日が昇り始めていたところだった。
カルクが帰って、寝ようと自分の部屋に行く前に四神の様子を見ておくことにした。
頭にのせておいたタオルを濡らして絞り、また頭にのせておく。
「―――――――たけ、る?」
その時ちょうど四神が眼を覚ました。
寝ぼけた眼で辺りを見回し、俺の姿を確認してポツリと名前を呼んだ。
「起こしたな。何か食えるか?」
「呼んだね」
「――――――は?」
四神の言っている意味が分からない。
「四神って、呼んだよね」
「ああ――――って別に言うほどのことじゃないだろう」
「だって今まで「お前」とか「おい」とかしか呼んでくれなかったじゃない」
言われて考える。
確かに、そうだったかもしれない―――――――気がする。
「あ〜、まぁ以後は気をつける。とにかくそのまま寝るなら俺も寝るぞ、もうお日様が昇り始めてる」
「うん。まだ起き上がれそうにないし、寝ちゃっていいよ」
「ああ」
そのまま返事して部屋から出る。
「じゃあな、きっかり寝てろよ四神」
とりあえずそう声をかけとくと、小さい声で「武もね」と返ってきた。
特に問題は無さそうなことに安心して俺も自分の部屋のベットに身を沈めた。
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