夢を見た。
いつもの悪夢としか言えないような夢。
いつもは夢だからと気にしないでいた。
でも今日は違った。
だって――――――知っている人が現れたから。
現れたのは学校の先輩。
手には刀を持っていた。
そこから先の出来事はあまりにも信じられないことばかりで
でもそれはあまりにも現実的すぎて
まるでこの夢は現実なんじゃないかと思わせるくらいで、酷く―――――僕を混乱させた。
でも、これは夢。
皇 三帝の見るちょっとした悪夢。
だってその証拠に自分はもうすぐ眼を覚まそうとしている。
黒い黒い悪夢を真っ白な世界にしてゆく光の中
皇 三帝は覚えることは無いが一つだけ自分に問うた。
自分は夢だと思っているが
果たして、本当にこの夢は夢なのか―――――と。
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カルクの言っていたとおり、何事もなく過ぎた日の翌日。
朝早くにやって来たカルクと四神と俺はテーブルで夏の朝食には不似合いなすき焼きの鍋を囲んで話し合っていた。
「朝から鍋とは珍しいけど、まぁ昨日武君には言ったとおり補足説明から始めるけどいいかい? 初美ちゃん」
「うん。昨日起きてから武にだいたいの話は聞いたし」
二人は四神が小さい時に何度か会った事があるらしい。
昨日四神から聞かされて知った。
「昨日皇の家系について話したけど、個人の分身は何か一つ特殊な能力を持っているんだ。君たちが
戦った皇 三帝は拳で触れた物を何でも壊す"破壊"と言葉を聞かせて相手を支配してしまう"皇帝"の能力
を持った分身が存在している。昨日も言ったけど皇にかけられた魔法は効力が薄れてきているから、これ
以上分身が存在していることは無いだろうと思う」
「じゃあその二人の分身さえ殺せば皇は普通になるんだな?」
「ああ。それに関しては未来良が戦ったことで証明されている。別に特別なことは考えないで殺せばいい。
あくまでも戦っているのは分身という身体だから本体である身体には何の影響もでない」
「そうか」
「ただできるなら本体が分身と入れ替わる前のほうがいい」
「どうゆうこと?」
「皇の者の中には分身がとんでもない事をして、その事実に精神的に耐えられず本体と分身が入れ替わる者
がいるんだ。そうなると今まで本体だったものだけを残しても、それは分身だから影が薄くなる―――――
つまり生命力が減ってしまう。分身はあくまでも分身だから本体よりは生命力が少ないんだ。逆に分身が本体
になれば生命力は増加するから戦闘で苦戦することになる」
「って、皇は本体と分身が入れ替わりそうなのか?」
「いやそれはまだだろう。彼の分身が表に出だしたのは恐らくここ最近だろうから。でも、このまま殺戮が
続けば近いうちにでもそうなる可能性は高い。だから今日にでも殺ってしまったほうがいいだろうね」
「それは分かったけど"皇帝"の能力はどうするの? カルクの結界を使ったとしてそこに誘導するまで逃げれる?」
四神の言う事は尤もだ。
確かに言葉を聞いただけでこちらは動けなくなってしまうのだから、よほどの距離をとって逃げねばなるまい。
だがそれはだいぶ難しいだろう。
俺が走るより声が空気中を伝わるほうが速い。
「だからこれから対策を練るんじゃないか。だけど――――その前に一ついいかい?」
「ん? 何? カルク」
「何故君たちはさっきから鍋の中身を食べないんだい?」
その一言に視線がぐつぐつと煮えたぎるすき焼きの鍋に注がれる。
ちなみに作られてから今まで中身は一切減っていない。
理由は明快にして簡潔。
こんなものが朝から食えるか―――――――ただそれだけだ。
では何故朝からそんなものを作ったのかと言うとそれにはれっきとした理由がある。
昨日俺も四神も夜になって眼を覚ましたということが一つ。
その頃には近くのスーパーが閉まっていたということが一つ。
加えて最近の事件のせいで相変わらずコンビニも開いていないというのが一つ。
その日はそのまま寝てしまったというのが一つ。
早朝、冷蔵庫を空けたらちょうどすき焼きに使う材料しか残っていなかったというのが一つ。
つまり、どうしようも無かったということである。
だが、そんな事情など関係なくすき焼きの鍋は激しく自己主張をしている。
こうして対策会議朝の部はすき焼きの処理に時間を費やすこととなった。
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