皇 三帝ではない皇 三帝
そう名乗る相手の突き出した拳を避ける。
相手の拳はそのままコンクリートの壁に当たる。
するとそれは先程の男と同じように砕けて崩れた。
「このっ…!」
武は無防備である敵の背後に刀を振るう。
三帝はその場所から跳んだかと思うとそのまま人間とは思えない動きでもって
近くの街灯の上まで跳んでいき、その上に立った。
「っははは! いいぜ、あんたおもしろそうだ!!」
上から武を見下ろして三帝は笑った。
武は相手のその言葉は無視して初美に話しかける。
「おい、確か死神の能力は何でも殺せるんだったよな?」
『そうだけど、それより武はあの相手とどういう関係なのよ?』
「それは後で説明する」
初美は納得いかないようではあったが、何か聞こうにもその時にはもう武が駆け出していた。
武は構えた刀で三帝が立っている街灯を斬る。
その瞬間、殺された街灯は綺麗な切断面と共に倒れた。
予想もしていなかった出来事に三帝は完全に不意をつかれた形で街灯と共に地面へと落ちる。
だが地面に着く前に三帝は街灯を殴った。
途端に街灯は砕け散りその破片が武へと降り注ぐ。
「くっ!」
その破片を避けるため、跳んで距離をとった武だが、その一瞬で三帝の姿を見失った。
街灯が無くなったために周囲は闇に包まれる。
武は近くの街灯まで走り出した。
そして、一歩を踏み出した武の眼の前に
破壊の拳が現れた。
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死神と異常者
二人が殺し合いを始めてから僅か数十秒。
だがそれだけでこの勝負の行方は想像がついた。
二人が殺し合いをしている場所から少し離れた位置でそれを見ていたシーウェルン=カルク=タスナは
ため息をついた。
「このままだと負けるのは死神――――か」
だがそれを責める事のできる者などはいない。
何故ならば境 武も四神 初美も皇の家系についてはまったくの無知なのだから。
そしてそれについて教えるはずだった自分が少し様子見に徹した時点でそれは決定している。
それに加えて皇 三帝と境 武は顔見知りだ。
いくら相手が三帝でない三帝と名乗ろうが、それを知りえない境 武が平然と殺す事など
できるはずがない。
だが相手は平然と人を殺せる。
故にこの勝負の想像は容易い。
だが、しかし
だが、しかしだ
シーウェルン=カルク=タスナはそろそろ助けに入ろうとしている自分を押しとどめた。
これは純粋な好奇心からくる観察。
自分の予想を今裏切ってくれた死神を見てわいた好奇心。
完全に不意をついて眼の前に迫る皇の破壊の拳
死神はこれを避けきることができず、わずかにかすらせて肩が破壊されると予想していた。
それを疑いすらしなかったのに、死神は咄嗟に身体を地面に倒しそれを避けた。
皇はそれに追い討ちをかけようとしたが、死神が倒れたまま刀を振るいそれをさせなかった。
それを見て自分が境 武を甘く見ていたのを認めると同時に考えを改め再び予想する。
ああ、しかし
間違いない。
やはり負けるのは死神。
ただ最初の予想と違うのは
負ける相手が
皇 三帝ではない皇 三帝
でもない皇 三帝である。
ということだけだ。
それだけを結論付けてこのままでは拙いと判断し
シーウェルン=カルク=タスナは動き始めた。
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