「なるほど」
男は呟いた。
やや渋めの緑色の髪にまるで閉じられているかのような眼で年は二十代後半といったところ
髪だけでも少々目立つのに男の服装はもっと目立った。
真夏だというのに長袖の服を着ている。
さらには、模様のようなものが施されているジャケットをのようなものまで着ている。
男が目立つ条件は整った。
だと言うのに男は周囲から一切注目されなかった。
「なるほど」
男はもう一度同じことを呟いた。
もう日も暮れて暗くなってきた街中で彼が見つめるのは二人の男女。
男は、自分の家の血筋のことを知らずに育ち死神と契約した者
女は、生粋の死神でありながらどういうわけか男と契約した者
それはとても愚かな選択とも言える。
死神が契約をする必要など、協力者を得る必要などどこにもないのだから。
だがしかし、男はそれを正しい選択だと思った。
確かに能力的に見れば、男が扱いきれるものではない。
せいぜい断片的な程度にしか使えないだろう。
だが、戦闘能力で見れば、確かに彼は彼女より武器の扱いも上手いし、それなりに強い。
それに彼女が彼と同調することで彼の身体能力を向上させるのだから、彼女単独で戦う
よりは楽だろう。
だから総合的に見れば案外契約は正しい選択だと言える。
二人は何やら話しながら歩いてゆく。
男はかなり距離をとって歩き出す。
もうすぐ戦いが始まる。
「さ、お手並み拝見といくとしよう」
男――――――魔法使い、シーウェルン=カルク=タスナは呟いた。
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「さて、出るとしたらどの辺りなんだろうな」
「そうねぇ」
武と初美は夜の街を巡回しながら考えた。
被害者が襲われた場所はいずれも何の変哲もない普通の道である。
だとすればやはり適当に街を巡回するしかない。
だが、それでは余りにも単純なので少し考えてみたのだが、無駄だった。
そのまま巡回を続ける。
時間は刻一刻と過ぎてゆくが殺人鬼が現れる気配は無かった。
「今日は出ないかな」
「もう少し歩いて何も無ければ帰りましょ」
時刻は十一時になったばかり。
二人が今日は出ないだろうと思い始めたその時、前方に人がいた。
サラリーマンと思える中年の男は恐らくは飲んでいたのだろう、顔は真っ赤で足どりも
しっかりしていなかった。
そして―――その男は飛び散った。
音も何もたてず、ただいきなり、爆弾の方がよっぽど説得力のあるくらいに四散した。
辺りには血の臭いが充満する。
二人は既に同調して、刀を抜いていた。
敵はそのまま姿を現す。
「――――――――皇」
一番嫌な予想が当たった。
出てきた感想はそれだけ。
眼の前に現れた後輩を見据える、と変な違和感が武を襲った。
眼の前にいるのは確かにメガネはしていないようだが後輩の皇 三帝だ。
だけれどそれはまるで皇 三帝ではない気がした。
殺人をしているから雰囲気が違う、といったことではなくて、まるでそっくりな他人を見ている
ような感覚がある。
これはノートに書かれていたことと同じだと実感し、同時に皇 三帝は間違いなく異常者だと確信した。
それ故にこの違和感は重要である。
武は刀を構えて問う。
「お前、皇 三帝じゃないな?」
『え?』
初美が疑問の声をあげるが説明する暇はない。
相手をはただにやりと笑う。
笑いながら駆け出してくる。
それは人を殺せることからくる笑い。
まっすぐやって来る相手は拳を突き出す。
それはあらゆる物を破壊する拳。
「俺は皇 三帝、とは異なる皇 三帝だ」
それは戦いが始まるという合図。
役者がそろわないまま幕開けとなった舞台でまず踊るは死神と異常者。
長く深い、それでいてあっという間の夜が始まる。
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