午後になって俺は四神 初美の家にいた。
この間来た時は暗かったし、食事をした部屋から出入り口まで往復しただけだから
よくわからなかったが、こうしてちゃんと見ると相当にでかい家だ。
大きさを表すのは東京ドーム何個分と言ったほうがいいくらいである。
庭園や噴水などいかにもお屋敷と言うような物もあった。
中は中で広い。
四神 初美の後ろについて歩いているからいいものの、一人で歩けば必ず迷う自身がある。
彼女は迷う事などなく、もくもくと歩き続けとある部屋の前で足を止める。
この家はおおまかに三つにわけられ中央に本館、左右にそれぞれ東館、西館とあり、それぞれは
通路で結ばれている。
彼女が足を止めた部屋は、本館の最上階である四階の父親の部屋とのことだった。
ドアを開けて中に入る。
「一体親父さんの部屋で何を調べるんだよ?」
「異常者との交戦記録を見るの。お父さん魔物はともかく異常者と戦ったら簡単にメモしてたから。
もしかしたら今回の事件と同じような現象を起こしてる異常者の記録もあるかもしれないし」
「なるほど。で、そのメモつか記録とやらは?」
「うん。たしか…この机の引き出しに…あ、これこれ」
と机の引き出しからノートを取り出す。
それを俺に向かって放り投げた。
「ちゃんと読んでね、それ」
「お前は?」
「私はほとんど読んだ事あるから」
「じゃお前が教えてくれればいいだろ。俺が読む必要ないじゃんか」
「そうだけど、見る人によっていろいろ感じ方も違うから念のため読んで見てよ」
そう言われると読まないのも悪い気がするのでとりあえずノートの一頁目を見てみる。
そのまま二頁、三頁とめくっていく。
書かれている内容は本当にメモのようなもので、簡単に見たままの感じで書いてあり
後からちょっとした考察などが書かれている。
と、六頁目でそれは終わっていた。
つまり異常者との交戦はそんなに多くないらしい。
もう一度最初から読んでいく。
「でもさ、これってもう全部親父さんが殺したんだろ?」
「ええ、そうよ」
「ならやっぱり読む必要ないんじゃないのか?」
「でも異常者は人間よ。もし子供がいれば能力が遺伝している可能性もあるわ」
「…なるほどね」
感心しながら納得してしまった。
とりあえず読んでいくも、今回の事件と似たようなのは無い。
そして五頁目、思わず思考が止まってしまった。
その頁の最初にはただ――――
皇
と書かれていた。
続きを読む。
『本人であって本人では無い。そんな者を相手にしている感じだった。』
その後に考察らしいものとしてこうあった。
『皇はどうにも多重人格者を思わせる。戦闘中にも違和感が拭いきれなかった。だがそれでは説明が
つかない点が出てきてしまう。それは皇を殺した時に性格が温和なものになっただけで皇が死ななかった
ことだ。確かに私と戦っていた時の人格だけを殺したのならばそれもありうるが、生憎私は皇という存在を殺した
ので通常そんなことがありえるはずがない。ならば皇はもしかすればあの皇なのかもしれない…
時間があれば知り合いに尋ねてみるとしよう。』
読み終えてしばらくそれから眼が離せなかった。
言うまでもなく思い浮かんだのはよく知っている後輩の顔。
「どうしたの? 何かあった?」
「…いや、別に」
四神 初美の問いに嘘をついた。
理由なんて簡単だ。
どうしてもあの人畜無害な後輩がこのノートに書かれている皇という人物と関係があるとは思えない。
いや、思いたくない。
「特にこれといったのは無いな」
「そっか、じゃあやっぱり夜に見回りしてみるのが一番ってことね」
「ああ」
こちらの考えていることを悟らせないよう振舞ったつもりだが、彼女は気づかないでいてくれた。
そのまま部屋を後にする。
夕飯は何にしようか等といった会話をしながら、もし殺人鬼が皇の子供だとかで、あの後輩だったり
したらどうすればいいのだろうかと考えた。
ノートには皇の能力について何も書かれていなかった。
それは今回の殺人鬼が皇の子供だったりすることを肯定も否定もしている。
でも、もし考えてることが現実となれば俺は後輩を殺せないだろうし、そのことを知った彼女も戸惑う
ことになるだろう。
とにかく
夜の街で殺人鬼を見つけることが先決だ。
話はそれからでないと。
自分にそう言い聞かせて、迷わないようしっかりと彼女の後に続いた。
NEXT
TOPへ