ぼくはまた夢を見た。
数日前に見た夢と同じ自分そっくりの少年がいた。
前と同じように暗い夜道を歩き続ける。
途中で三人組の男を見つけた。
駆けて後ろから一撃、一人が吹き飛んで死んだ。
突然のことに驚く事しかできない残り二人。
その隙にまた一人死んだ。
最後の一人がようやく自分が危険にさらされている事に気づいて逃げ出す。
だがそれより早く男の背中に少年の鋭い蹴りが突き刺さる。
悲鳴などあげれもせずに最後の男も死んだ。
周囲は以前より遥かに濃く赤に染まる。
そんな惨たらしい場面を見ているのにぼくは驚きもしなかった。
だってこれは夢だから。
だから眼が覚めれば何もかも消えてなくなる。
そのまま少年を見つめる。
しばらくして夢は目覚める意識とともに白く消え失せた。
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夏休みに入って一週間が過ぎた。
その間街を騒がしているのはとある殺人事件だった。
始まりは終業式の日の前の日の深夜。
残業帰りの女性が帰り道に何者かに殺されたのである。
気がついたのは早朝に掃除をしていた近所の主婦で、家の前に何かの欠片を見つけ周囲を見回したところ
似たようなものが所々にあり、何だろうと思ってよく見れば人の指と思われるものがあったので警察に通報
した。
そして今日の朝のニュースで昨日の深夜に三人の男が殺されたと報道された。
その三人もバラバラの欠片になってしまっていることから警察は同一犯の犯行として捜査している。
現在殺害のあった現場を中心に捜査しているが今のところこれといった情報はないらしい。
と、ここまでが世間一般で知られている事実。
俺はテーブルに置いてあるコーヒーを口に運び、四神 初美が警察からどういう方法で得たのか分からない
一般には公開されていない情報をまとめた用紙を見る。
内容としては、これらの被害者の死因は分からないというものだった。
まず思い浮かぶのは体内に爆発物をしかけた、ということだが被害者が殺害されたのはいずれも深夜。
もし爆発なんて起きれば、誰かが気づくはずだ。
だが実際はかなり大量の爆発物が使用されたと予想されるにも関わらず、それに気がついた者は誰も
いなかったと言う。
だからと言って他の方法では人を欠片ほどにまでバラバラにするのは難しい。
できなくもないがだいぶ方法が限定されるし、場所的、時間的に見てもそれらの方法は行えない。
「何なんだかなぁ」
その後は論文のように難しい感じでありながら結果としてお手上げですと言ってるような文章しか
書かれていなかったので読むのをやめた。
「ただいま〜。ふ〜あっついー!」
とちょうどそこに四神 初美が買い物から帰ってきた。
「ただいま。アイス買ってきたきたけど食べる?」
リビングに入って俺を見るなり彼女はそんなことを聞いてきた、丁重にお断りしておく。
彼女はふ〜ん、とだけ答えて買ってきた食材を冷蔵庫に入れて俺の方へとやってきた。
「それ読んだ?」
「この用紙か? 読んだよ。で、もう単刀直入に聞くけどこれは魔物の仕業なのか?」
「違うわ。それだったら一人目の被害者の出た時点で武に言うもの。それに魔物はいれば気配でわかるし」
「そうなのか?」
「ちょっと武、私の説明聞いてたの?」
彼女が手にしたカップのバニラアイスのフタを開けスプーンで食べ始める。
確かに夏休みに入って一週間、死神のことをいろいろ説明された。
だが、俺には理解できないことの方が多い、と言うか世界の死の根源とか言われても頭がさっぱりである。
結局は大雑把な事しか理解できなかった。
「いい? 私は世界の死と同義なの。だから世界にとって異常となる魔物なんかには敏感になるの、思い出した?」
「言いたい事はわからないでもないいんだが、世界の死とかいうのがイマイチ…」
「それは私も説明しづらいから適当でもいいわ。にしても…本当に暑い〜」
アイスを食べながら器用にヘナヘナとテーブルに突っ伏す四神 初美。
その姿を見つめてふと思った。
「そういやさ、よくお前の母親は男との同棲を許可したよな、普通は反対しそうだけど」
顔だけこちらに向けて彼女は不思議そうに顔をしかめた。
「あれ? 武ってお母さんと話したことあったよね? 車で送った時に」
「ああ、いろいろ聞かれた」
「その時にお母さん、武に私のことよろしくって言っといたからねって言ってたけど?」
何?
必死に記憶を引っ張り出す。
そういえば最後にそんな台詞を聞いた気がするけど、あれって戦いの最中の話じゃなくて
そういう意味で言ってたのか?
「確かに……言われてる、なぁ」
「でしょ? って、あ! 話がズレてる。問題なのは殺人事件よ殺人事件」
俺としては殺人事件よりもそちらの方が問題な気がするが、彼女に協力すると言った以上は彼女の話を
聞かねばなるまい。
「でも魔物じゃないんだろ?」
「ええ。でも異常者かもしれない」
「何だソレ?」
「簡単に言えば特殊な能力が使える人間ってとこ」
「死神みたいな?」
「死神は特別よ。どっちかというと発火とかサイコネキシスみたいな感じかなぁ」
「でも結局それで人を殺せるならそれは異常だろ? 何で感知できないんだ?」
「それは、魔物は明らかに世界が異常と認識するけど、異常者はあくまでも人間でしょ。
世界も異常と認識しづらいのよ。異常な能力を使えても平穏に暮らす人間もいれば逆もあるわけだし」
それに関しては何となくわかる。
つまり人の集まりの中に牛でもいればそれはおかしいと思えるけど、人の集まりの中に殺人鬼がいても
そいつが人を殺すまでは、気づく事が難しいということだろう。
「要は無関係とは言い切れないんだな?」
「そう、だから後でもう少し調べてみようと思うんだけどいい? 武」
「ああ、いいぞ」
返事をして、立ち上がる。
冷蔵庫の冷凍室からアイスを取り出してテーブルに戻る。
「何だ、やっぱり食べるんじゃない」
「今食いたくなったんだよ、今日は暑い」
そのまま同じくカップのバニラアイスのフタを開け食べ始める。
暑さでまいっている身体にはこれ以上ないくらいありがたかった。
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