調子に乗りやすい人間が暴走するとどうなるか。
 俺は身をもってそれを知る事になった。

 そもそもの原因は俺が彼女と契約した日の夜、というか明け方。
 飯を食わしてもらうために彼女の家に招待してもらったのが始まりである。

「お、おい…本当にいいのか? こんなにも」

 眼の前に並ぶ豪華な料理を眺めながら俺はとりあえず聞いた。
 もちろん遠慮するつもりなんてない。
 どうぞ、という一言さえあれば即食らいつくつもりである。

「もちろん、私たちもう運命共同体なんだし遠慮しないで」

 それを聞いて料理に食らいつ――――――けるハズがない。

「運命共同体って…大げさだな」

 確かにそう呼べなくもないだろうけど。
 と、四神 初美は明るい声で答える。

「いいじゃない、別に困りはしないでしょ?」

「ま、そうだけどさ」

「じゃあ決まりね! ほら、早く食べて食べて」

 そう言って四神 初美は料理を食べ始めた。
 俺ももう限界だったので料理を食べ始める。
 そのまま難なく食事は済んで、俺は車で家まで送ってもらうことになった。
 金持ちらしくリムジンだったりしたので驚いたが、乗り込んでもっと驚くことになった。
なんと、四神 初美の母親が乗っていたのである。
 名前は四神 小夜子(ししん さよこ)
 四神 初美が大人になればこうなるんだろうなというくらいそっくりだった。
 違う点といえば髪が長いのと、大人な雰囲気があるところくらいだ。
 そして車が家に着くまでの間いろいろと聞かれて、最後には

「うちの娘をよろしくね」

 何て発言までされてしまったが、その時の詳しい状況は今俺が落ち込む理由に関わってこないので
―――――割愛しよう。

 そしてその週の土曜…問題が起きた。
 朝騒がしい音がするので眼を覚ますと、四神 初美が俺の部屋にいた。

「おはよう、やっと起きた! あなたって休みの日はいつもこんななの?」

「昨日は夜更かししちまっ―――――――って、何でここに!?」

 驚く俺をよそに四神 初美はこれでもかって笑顔できっぱり言い放った。

「私今日からここに住むことにしたから」

「はぁ!?」

 一瞬彼女の言ってる事が理解できなかった。
 彼女はつまり俺と同棲すると言ってるようにしか聞こえない。
 それを裏づけするかのように開いたドアからいろんな家具などを運ぶ黒服の方々が見えた。
 ボディーガードとかいうやつだろう。
 俺の視線の先に気がついて四神 初美が声をあげた。

「みんな! 武がうるさくて困ってるわよ! 静かに迅速に済ませて!!」

 その途端黒服の方々が俺を見つめて、申し訳ありませんでしたと謝った。
 何と言うか俺は気が少し弱いのかもしれない、すっかり反論する気が無くなってしまった。
 正直……少し怖かった。
 それより気になることがあったのも事実だが―――――
 四神 初美に振り返る。

「おい、いくつか質問だ」

「ん、何?」

「まず、何で俺の家に住む必要がある?」

「別に夜に街のどこかで待ち合わせてもいいけど、来る途中に魔物に襲われたら厄介じゃない。
私の家に住んでもらってもよかったけど?」

「いや、いい。じゃ次に荷物は入りきるんだろうな?」

「もちろん。必要最低限の物しか持ってきてないから大丈夫よ」

「んで、次は生活費だ。聞かなくても問題ない気はするけどお前の分はお前が出すんだな?」

「それももちろん」

「最後だ。何で俺のこと呼び捨てなわけ?」

「だって運命共同体なんだし、いいじゃない」

 もういっそ夢だと思いたい。
 そう思いながら二度寝をすることにした。

 そんな慌ただしく始まった一日もあれやこれやと過ぎてゆき次の日の日曜。
 問題は大問題に発展した。
 キッチン兼リビングである部屋で四神 初美の作った朝食を食べ(意外とうまかった)
今日はどうしようか考えていた時だった。
 ピンポーンと、家のチャイムが鳴った。

「はいはーい」

「ちょっと待て! 俺がでるからいい!!」

 玄関に向かう四神 初美の肩を掴んで強引に引き止める。

「勝手に上がるぞ。武―――――って、アレ?」

 そこにちょうど陽がやって来た。
 少し戸惑っていたがすぐににやりと気味の悪い笑いを浮かべる。

「おい、変な勘違いするな―――――」

「レア情報ゲットだぜーっ!!」

 こちらが言い訳する間もなく陽は帰っていった。
 教えてもいない家の場所をどうして知っていたのかは知らないがもはやそんな事は問題ではない。
 あの様子は絶対に言いふらすつもりだ、どうにか阻止しないと。

「何しに来たんだろうね? 武の友達」

 こちらの空気を感じもせずに四神 初美が言う。

 それから一悶着あったりしたけど、結局陽を止める事は叶わず次の日―――――つまり今日
終業式を迎えることとなった。

 登校して下駄箱を開けると今どき存在していたことに驚く剃刀レターが数十通入っており。
 靴には画鋲が接着剤でくっ付けてあった。
 来客用スリッパを拝借して教室まで行くと机と椅子が無くなっていて、その場所には
赤いペンキで意味不明の単語が書かれていた。
 普通ここまでされて落ち込むなと言う方が無理なわけで、俺は終業式をサボり例の休憩場所へ
向かう事にした。

「まぁ簡単に説明するとこういうことがあったんだよ」

「そうだったんですか」

 落ち込みから多少立ち直った武の回想に三帝は返事をした。
 もちろん武は死神等の話はうまく誤魔化して話した。
 三帝もそれで納得して深くは追求しなかった。
 彼らは先輩後輩に関係なくそれなりに親しい間柄だ。

 彼ら二人と沙理縞 陽の三人の出会いはいたって単純である。
 昼休みぐらいはのんびりしたいと思った三帝が校内を歩き回るうちこの部屋を発見した。
 そこを使ってしばらく経ったとき、静かな場所がないかと校内を歩き回っていた武と陽が
この部屋に入ってきたのがきっかけだ。
 三帝は部屋を譲ろうとしたのだが、二人は先に使ってたのはお前だからという理由で受け付けなかった。
 それからは昼休みに会うことが多くなり自然と親しくなった。

「って、もうホームルームですよ先輩」

「そんな時間か。お前はそろそろ戻れよ」

「あの、先輩は?」

 立ち上がろうとしない武に三帝が聞く。

「俺は今日は完全にサボる、第一机と椅子無いからさ」

「何なら先生からプリント貰ってきてあげましょうか?」

「いいさ、四神 初美から聞く」

「あ、そうでしたね。じゃ先輩良い夏休みを」

「おう。お前もな皇」

 そうして三帝が部屋を出て行く。

 ため息まじりの夏休みが、始まった。


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