「せっかくこっちが盛り上がってるってのに…何だよテメエ…!!」

 皇がこちらの間合いに入るために踏み込む―――――――刹那
 斬り殺された壁から勢いよく水が噴き出す。







 そう、ここが下水道ならばあるはずなのだ、水が流れる管が。







 突然真横から噴き出てきた水に一瞬皇の注意がそれる。

 そしてそれは俺が皇に刀を突き刺すための一瞬。
 突き出した刀は何の抵抗も無く皇の腹部へと突き刺さった。

「…………あ?」

 腹部に深々と突き刺さる刀を見ても皇は何が起きたのか理解しかねた。
 血が滲む。
 それが小さいものから大きいものへと変わってからようやくそれが自分の血だと気づいた。
 痛い、もの凄く痛い。
 だが、皇にはそれを認識する暇などなかった。

 刀がゆっくりと引き抜かれる。

 それと同時に痛みなどどうでもなるような不意な感覚が身体中を支配する。

 ―――――――"死"

 それを理解できた時には徐々に全身の感覚が消えていった。
 だが消えているのは感覚だけではない。
 身体が端から透明になって消えていく。

 分身ゆえの運命。

 しかし、皇は悲しみなどしなかった。
 まだ"皇帝"がいるし、なにより――――――

 消えゆく身体と感覚を実感しつつ、反面では戦慄と恍惚が抑えきれなくなっていたから。

 もう首から上が消えようとしている中、皇は最後にこれ以上ないくらいの、極上に最低な笑みを浮かべ
自身の手足を見つめた。

「ふむ、"破壊"が消えたか」

 "皇帝"の皇は手を数回開いては握ってを繰り返し、自身の身体の感じを確かめる。
 分身が殺されても本体に影響はでないが、同じ分身である自分には多少影響がある。
 特に"破壊"が受けた死は普通の死ではない。
 手のひらに汗が浮かんでくるまで開いて握る行為を繰り返してようやく身体が意のままに動くことを
確認して、意識を集中させる。

「殺してやる…死神」

 辺りを見回す。
 死神は、いなかった。

-------- ◆ -------- ◆ -------- ◆ -------- ◆ --------

「よっと」

 梯子で地上に上がり、一息つく。

「これで一人…だな」

『だけど、これからの方が重要よ。失敗できないんだから』

「わかってるけ――――――――っつ!」

 頭痛と身体中に激痛。
 歩く事もきついくらいの激痛だが、これでだいぶ誤魔化されていると言うのだから少しは
 我慢しないといけないだろう。

『ちょっと、大丈夫なの?』

「四神だって誤魔化すのに全力使ってるんだろ? なら、多少は問題無いことにするさ」

 言葉どおり歩くたびに痛みが走っても極力無視する。
 そのままふらふらと歩き出す。

「どこへ行くつもりだ?」

 ここで声の主を確かめる必要などないのは明白なので背を向けたまま答えることにした。

「あんたを殺す準備をしてきたんでね。それを使いに行くんだけど?」

「あの男の結界とやらか……させると、思うか?」

「いや、思わない。だから――――――――俺たちも考えたんだ」

 と言うと同時に四神との同調を解除する。
 すぐ隣に現れた四神はあらかじめ持っていた小型のナイフで空を切った。
 そしてすぐにもう一度同調する。

 すぐさま、後ろも振り向かずに痛む身体で走り出した。


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