真正面からの跳び蹴りをしゃがんで避け、武は今までにない頭痛と全身の痛みに瞳をきつく閉じた。
いくら咄嗟のことだったとはいえど、生物でない道路を殺したために反動が襲ってきた。
『武! 後ろっ!!』
後ろの様子を見ていたのだろう四神の声が頭痛の治まらない頭に響く。
身体中の痛みはなるべく無視して前に跳んだ。
受け身をとって背後に眼をやると、皇の拳によって自分の居た場所が爆ぜていた。
続いて繰り出される蹴りと破壊の拳の連打を受け流したりして、避けていく。
「ひゃはは! どうした!? 俺を殺すんだろう!? 早くしてみろよ!!」
皇の連打は止むことなく続く。
(おい四神、俺がもう一度だけ生物以外のものを殺しても大丈夫だと思うか?)
声に出さず四神に問う。
自分に同調しているのだから声に出す必要などない。
『冗談でしょ? 今だって私が痛みを誤魔化してソレなのよ。これ以上反動が加わったら死ぬかも
しれないんだから』
頭に響く返事に軽く驚いた。
誤魔化してこの痛みということにではなく、四神が痛みを誤魔化してしたということにだ。
同調しているのだからこちらの痛覚をどうこうするというのも簡単なのだろうが。
などと考えながら皇の拳を身体を捻ってかわし、わき腹めがけて蹴りをいれる。
健在な腕は伸ばしきったままで、こちらが蹴りをいれたのはさきほど腕を殺した方。
よって皇はこれをかわすことができず当てることを許した。
衝撃に動きが止まった隙に刀を振り下ろす。
皇は舌打ちをしながら後ろに跳んだ。
(にしてもどうにかならないか? このままここで戦うのは厳しいぞ)
話しかけて周囲を確認する。
どこからどう見ても下水道である――――――――つまり、刀を振るうにはあまりにも狭い。
腕を殺した時の芸当は二度できるものではあるまい。
それができると思うほど自分の実力を過大に評価してもいない。
だからこそあと一度生物以外のものを殺せるかどうかが大事だった。
『だいたい道路殺したのは武でしょう? まったく――――』
と四神が考え込む。
皇の方へ注意すると、警戒しているのかこちらの様子をうかがっていた。
『私が武の痛覚全力で誤魔化してもギリギリね。やるならそのへん覚悟しなさいよ』
(―――――――――了解)
半ば脅しを含む声色の四神に返事をし、駆け出す。
刀を横に一閃させ、皇の首を狙う。
だが、上半身だけを後ろにずらして皇はそれをかわし、足で刀を蹴った。
結果、刀は壁に触れることとなったが、壁を斬り殺し刀を振り払う。
そのまま武は後ろに数回跳んで距離をとった。
『ちょっと武! まさかあれだけのためだっていうの!?』
少し治まりをみせた頭痛を吹き飛ばすくらいの音量が問答無用で頭に響く。
が、武はそれを無視した。
チャンスは一度
ここが下水道というなら、必ずあるはずだ。
そしてそれに当たるくらいに深く壁を斬り殺した。
だからあるはずなんだ。
「おい、遊んでんなよ。さっきの勢いは何なんだ!」
武は叫ぶ皇すら無視してただ一度のチャンスを待った。
ゆっくりと歩いてくる皇。
あと数歩歩けば一跳びでこちらの間合いに入られる。
だけども武は動かない。
ただ一度だけのチャンスを――――――その一瞬を逃さぬよう、待ち続けた。
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