ぼくは、夢を見た。

 それはとても悪い夢だった。

 薄い茶色の髪に黒眼、そしてどちらかと言えば貧弱そうな少年。
 まるで自分そっくりの少年がいた。

 場所は何でもない普通の道

 時刻は……真夜中だろう、真っ暗だ。

 その中を少年は歩いていた。

 しばらく目的が無いように歩いていた少年はふと足を止めた。

 そこからいきなり走り出した少年は前方にいる女性の背中を殴った。

 殴られた女性は悲鳴を出すことすらできなかった。

 ―――――――耐え切れない痛みのせいではない。

 ―――――――気絶してしまったせいでもない。

 信じがたいことに女性は殴られると同時に音こそしないが爆裂四散したのである。

 まるで体内にダイナマイトでもあったかのように。

 これでは声が出せるはずがない。

 少年はそこで立ち尽くした。

 それだけでは何かわからない人の欠片となったものが降り注ぐ。

 辺りは一変して赤に染まる。

 その夜の闇すら飲み込む赤は夜空に浮かぶ欠けた月すら赤く見せる。

 そして、自分そっくりの少年と眼が合った。

 少年の口は笑っていた。

 ぼくは、そこで夢から覚めた。


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 皇 三帝(すめらぎ みかど)はため息をついた。
 薄い茶色の髪に黒目、そして貧弱なそうなメガネをかけたその少年はもう一度ため息をついた。
 ここは簡単に言えば学校でも使われていない部屋の一つである。
 部屋の中にはただ一つ古びたソファー以外何も無い。
 そのソファーに腰掛け三帝はただ時間が過ぎるのを待った。
 と、その時部屋のドアが開いた。

 ここは使われてなければ存在すら知る者が少ない場所だ、そんな場所にやって来るのは自分を
除いて二人しかいない。
 予想どうりやって来たのは二人のうちの一人だった。
 伸ばさず適度な長さの黒髪、ややきつめの感じがする黒眼、今時では珍しいくらいな高校生である
この人物の名は境 武。
 この学校の二年生…つまり僕の一年上である。
 七月のそれも終業式の日という夏休みだと告げるような日なのに先輩の顔は少し疲れている。

「なんだ居たのか、皇」

 こっちに気がついた先輩がよう、と挨拶してきた。

「ええ、ここに来たってことは境先輩もですか?」

 会釈しながらそう返すと、まぁなと答えて先輩も僕の隣に座った。

「疲れてるんですか先輩? 顔色が優れないみたいですけど」

「まぁ、いろいろあってな…」

 言葉を濁して先輩は俯いてしまった。
 もしかして……今朝聞いたアレのことだろうか。
 心当たりがあったので聞いてみることにした。

「もしかして先輩が四神 初美さんと付き合ってるっていう噂のことですか?」

 先輩は聞いた途端に両手で顔を覆って泣いているような格好をしだした。

「マジかよ…一年にまで広まってるのか、ソレ?」

「ええと、朝の時点でほぼ全校生徒に伝わってると思います」

「うう…何で、何でこんなことにぃ……」

 そう言う先輩は肩が震えていた、本気で泣いてるのかもしれない。
 こんな時はどう声をかければいいのだろうか。
 恐らく先輩はだいぶまいっているのだろう、でなければ比較的真面目な先輩が終業式の最中に
ここに来たりはしないだろう。
 むしろサボリ魔である沙理縞先輩が来ないのが不思議である。

「あー、えー、あのですね―――――」

 と声をかけようとした僕を先輩が片手で制した。

「何も言うな。今同情されたらいくら俺でも立ち直れん」

「わかりました。そういえば沙理縞せんぱ―――――」

 そう言う僕を再び先輩は片手で制した。

「奴の名は口にするな。あいつよりにもよって連中と一緒に俺のことおちょくりやがった」

「わかりました」

 そう返事して終業式が終わるまで隣の先輩のすすり泣きを聞きながらのんびり過ごした。


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