物事にはバランスというものがある。
それは気温や湿度というようなものから
何かを行う時に使う人の数など、さまざまである。
そしてその中には生物の数―――――というものも、ある。
生物のバランスというのは一番世界が力を入れて保とうとするものだ。
種というものを生み出し、時には殺す。
そうすることで世界は種に飲み込まれないようにする、言わば自身を保守している。
もちろん種だけでなく、鉱物などこの世に存在するあらゆるものに対して世界はバランスを保っている。
そしてその世界がバランスを保つための死という根源に繋がったのが私の家系。
どういう原理か知らないが私の家系はその根源に近い根源を持っていたから繋がってしまったらしい。
らしい、というのは私はその話をうろ覚えにしか聞いていなかったのと、唯一それについて語れるハズ
の父が少し前に死んでしまったためもうその話が聞けないからだ。
ともかく私の家系には世界の死を生まれた時から識っている者が現れる。
父と私が最近ではそうだった。
そして私たち親子は共に何でも殺せるという奇怪でしかない能力を持っている。
それは、ただ"殺す"という意思を持って攻撃すれば本当に何でも殺せるのだ。
それが自分より遥かに強靭な肉体を持った肉食動物だろうが、
機械を使ってやっと加工できるようなダイヤモンドだろうが、
生物も、非生物も関係ない。
この世に存在するあらゆるものを殺すことができる。
そして父はその能力を使い、世に現れる異常なものを殺していた。
異常は本来あってはならぬもの、存在自体がおかしいもの。
例えば、この夜の街に現れたスライムのような魔物。
そういったものを駆逐していた。
それ故に死神という呼び名が"イジョウシャ"からつけられ、恐れられた。
だが父は、死神と恐れられていたのに呆気なく交通事故で死んだ。
そのため今は私が父の跡を継いで死神をしている。
そして彼と出会った。
昨日の夜中に見つけた魔物との戦闘が朝まで続き、逃げられそうになったので追いかけていた時だった。
ある人気の無い道路の近くまで来て、トラックに轢かれそうな彼を見つけた。
黒髪は伸ばさず適度な長さで、黒眼、顔も整えれば充分光るだろう。
背も平均的にある、制服は第一ボタンまでしていなかったが、蒸し暑いからだろう
とにかく今ではむしろ珍しいくらいの高校生である彼を一目見て驚いた。
彼は異常だった。
彼は普通の人なら生命活動を停止することで識ることのできる死というものを、生きているのに
それに近いところまで知っていた。
恐らくは九死に一生を得るような体験をしたことがあるからだろう、それは何も問題ではない。
私が驚いたのは人より一歩進んだ領域の死を知っているのに死を恐怖せず受け入れようとしていることだった。
私は世界のあらゆるものの死というものを識っているから、死というものに恐怖する。
いや、私でなくとも普通の人だって恐怖するハズだ。
だからこそ私は死を受け入れられる彼が不思議で―――――気がつけば助けていた。
あの時は咄嗟に身代わりを使って、運転手と彼のその時の記憶を殺した。
だというのに、彼は放課後に朝の出来事を質問してきた。
彼の記憶は殺せていなかった。
その事実に私はまた彼に驚かされた。
そして今―――――私はまた彼を助け、走った。
ある程度走って、彼に向かい叫んだ。
彼は私の姿を認め、少し驚いていた。
だけどそんなことは知った事ではない、もう一度彼に向かい叫ぶ
「答えて! あんた一体何考えてるのよ!?」
私より背の高い彼は、でもこの時だけは小さく思えた。
「その…何って、何が?」
「だから、何であんなに平然と死を受け入れようとしてるの!? おかしいじゃない!!」
何の事だかわからないという顔をしていた彼にそう言うと、彼はああ、と納得した顔をした。
「そのことか。んなの簡単だ、俺は生死に関してどうでもいいからだ」
ごく普通にそう言ってのける彼は酷すぎるくらい普通だった。
それに納得はできなかったもののこれ以上話しているわけにもいかない。
敵が近くまでやってきている、彼は逃がさないと。
「納得はできないけど今日はもう家まで帰って。アレは私が殺すから」
じゃあね、と彼に背を向けると後ろから手が掴まれた。
「ちょっ…待てよ! お前があのバケモノを殺す? 無茶言うなよ」
「大丈夫よ、私は死神だもの」
彼に背を向けたままそう答え掴まれた手を振りほどく。
そのまま走り出す。
そう私は死神。
世界のあらゆるものを殺せる。
だから何も―――――――怖くない。
この手の震えだって、じきに止まる。
止まる、はず。
そして、私は魔物と対峙する。
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