そのまま学校まで行き、自分の教室の自分の席に座る。
それまでの間のことは何も頭に入っていない。
頭が考えることができるのは消えてしまった少女のことだけ。
俺が見たのは夢だろうか。
いや、俺が生死に関してどうでもよくなっているとはいえ、あんな朝から夢を見るほど適当に
人生過ごしているわけではない。
だからと言って都合のいい説明がでてくるわけではない。
どう説明しようとしても説明のしようがない。
「ああ…何だってんだよ、一体」
あれこれ考えて結局答えなど出てこず、机に突っ伏す。
「よっ、朝からお疲れ気味?」
そこへ聞き慣れた声がする。
顔だけあげて相手を見る。
沙理縞 陽(さりじま よう)
普段から無愛想にして周りを寄せつけないように学校生活を過ごしている俺に何故か自分から
話しかけてきた奴である。
金髪だ、校則は守らないわの、いわゆる不良と言う奴である。
そんな奴が何故俺みたいなのに話しかけるのか未だに分からない。
が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「何か用か? こんな朝から」
陽が俺の前の席に座る。
「んー、暇だったからよ。遊びに」
「帰れ」
だいぶ真剣にそう告げると、陽は怒るどころかにやぁっと気味悪く笑った。
「何だ悩み事か?」
「…そんなところだ」
「ほー…で、どんな?」
「絶対に言わないからな」
もう一度真剣に告げる。
陽が「お話聞きモード」になるとしつこいのはもう嫌と言うほど知っているが
だからといってつい今しがたした体験を話したところで笑われるだけに決まってる。
「今回はやけに意地っ張りだな、武」
「話したくないだけだ」
「なるほど、人に話しても信じてくれない類の悩みか」
「……はぁ」
どうしてこいつはこうも俺の考えることを見抜いてくれるのだろうか。
陽の顔を見る。
その顔はこれでもかってくらいに――――――――笑っていた。
「……はぁ」
負けた。
しかたなく俺は簡単にあの不思議な出来事を陽に話した。
-------- ◆ -------- ◆ -------- ◆ --------
「でも…不思議な話だよな」
今は昼休み。
俺の前の席に座り、パンを食べながら陽が呟く。
「俺は疑いもせずに信じてるお前が不思議だけどな」
てっきり大笑いするかと思っていたのに、どうも本気で信じているらしい。
陽はそれを聞くとムッとした顔をしてこちらを睨んだ。
「何だよ、疑ってほしかったのか?」
「どちらかといえばな」
そうして弁当に箸をのばす。
陽は何だそりゃという顔をしてまた別のパンを食べる。
「でもさ、お前を助けたってゆうその女の子。どんな娘だったんだ?」
「あ? え………っと」
その時の風景を思い出して、外見の特徴を教える。
「赤みがかった茶髪で髪を後ろで左右に…ねぇ。学年は?」
「確かリボンが青かったから俺らと同じだ」
大抵の学校がそうであるようにリボンだとかは学年により色が違う。
うちの学校も例外ではない、俺と同じ二年は青色だ。
陽はふむ、と考え込んで口を開いた。
「それってさぁ、四神 初美じゃねえ?」
「は?」
「だから、四神 初美(ししん はつみ)。特徴のまんまだし、俺らと同じ二年だし」
「いや…その…誰? 四神 初美って」
悪いが俺はクラスの奴の名前すら覚えていない。
他のクラスの奴ならもってのほかだ。
「武…それ本気で言ってるか?」
「ああ、本気で知らない」
陽は額に手をあて、「あ〜あ、こいつはぁ」とか小声で囁くように呟いた。
何だろう、もしかして四神 初美とは有名な人物だったりするのだろうか。
「いい機会だ、覚えとけ。四神 初美って言えば四神家の跡取り娘だぞ。
お嬢様って奴だな。その割に性格はいいし、何でもできるもんだから人気も高い。
ギャルゲーにでも居そうな人物だな。去年の校内人気投票でも学年一位だったし。
最近は親父さんが亡くなったとかで、忙しいみたいだけどな」
そう言われれば去年の学校祭でそんなことを騒いでいた奴らがいたような気がする。
あれはそうだったのか。
「まぁ分かったけどその娘はそんなに俺の言った特徴のまんまなのか?」
せっかく説明してもらってもその娘が俺を助けた人物と同じでなければ意味が無い。
「んー、まぁ……って、ああ、あれあれ」
と廊下を指差す陽。
その方向を見ると女子の集団が楽しそうに喋りながら話している。
「あれの真ん中にいる娘だ」
陽の言うとうりに真ん中をの方を見る。
そこには――――――――――
俺が見ても分かるくらい周りよりかわいいと思える娘がいた。
たぶんあれが陽の言う四神 初美なのだろう。
そしてそれは――――――――
間違いなく朝俺を助けた人物
そのものだった。
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