「んで、話って何だ?」
昨日ポーレウスと来た喫茶店。
ただし正面に座っているのはポーレウスではなく中年の男性だ。
しかも警察機構の人間ときた。
だが、ボサボサの黒い髪と無精ひげ、何でも見通すような眼つきは警察の人間というよりは
ハードボイルドな探偵を思わせる。
あのあと、気を取り直してバイトを探していたら急に声をかけられた。
「ああ、君も面識のあるポーレウスのことなんだが…」
「できれば聞きたくない、というか聞かない」
「ケーキはどうだい? ここのモカ・ケーキは絶品だ。もちろん奢るよ」
「まぁ、話だけなら聞いてもいいかな」
「ありがとう。で、だ。きっと彼女のことだから君に迷惑をかけたと思うんだが?」
「ああ、たっぷりとかけられた」
断言してやるとおっさんは深いため息をついた。
やっぱりか、と言わんばかりに。
「彼女は、つい最近までこの大陸の警察機構本部に勤めてたんだ。学校も主席でいわゆるエリート
ってやつだ。それが特に問題を―――――」
「ちょっと待て!」
「…何か?」
「いや、この際聞いておきたいんだけどさ。警察機構ってどんな組織なんだ? 少しだけなら知ってる
んだけどさ、あんまり詳しく知らないんだよな」
元々知名度が低い上にどうしても大陸独自の組織の方が強いせいで影が薄いんだよなぁ。
ちなみにこのおっさんまでポーレウスが"エリート"だとか言った気がしたが無視しておく。
「簡単に言えば大陸独自の組織の下っ端になる。大陸独自の組織は確かに強大だが、反面迂闊に動き出せない
面がある。おまけに構成人数も多いとは言い切れない。だから自分の組織の手足となるような存在として作った
のが警察機構だ。まぁ各大陸ごとに行動内容が違うんだが、作った最もな理由が同じなもんで警察機構って
ひとまとめで呼ぶようになったんだ。今では各大陸間の情報交換もやってるがウチのやってることは大体が
こういう辺境の街や村の治安維持だな」
「ふーん。そう聞くと結構マトモな組織だったんだな。認識を改めないと」
俺はまたてっきり大陸独自の組織に負けじと作り上げたのはいいが勝つこともできず、だからとてそう簡単に
負けを認めることもできずずるずると隅っこに追いやられた組織だとばかり思ってた。
「分かってくれたところで話を戻すが、彼女は特に問題を起こしたわけでもなく自分から志願してこの街の
支部にやってきた。そのまま本部にいればエリート街道まっしぐらだったのにだ。そしてここに来てからは
君も知ってのとおりあの有様だ」
「ここに来てから? いや絶対変だろ、それ」
あのダメさがここに来てからのものだなんて……そんなバカな。
「君の言いたい事は私もよく分かる。分かるが本当なんだ。だが、当然とも言えるんだ。彼女は本部では今の
ように我々同様外を走り回るような役職でなくて我々を動かすことが仕事だったからな」
「それはつまり―――――指示する側では完璧なエリートだけど指示される側はダメダメってことか? でも
それならそういう役職にさせたらいいだろ。何でそうさせない」
「私たちもそう薦めたんだが、彼女自身が頑なに拒否してね。で、ここからが本題だ。実を言えば彼女が
これ以上失敗および住民へ迷惑をかけるようならそれ相応の処置をしなくてはいけない状況にある」
それ相応ってのは、クビとか、もっと辺境の地への左遷とかだろうな。
…にしても、そんなに失敗だとか住民に迷惑かけてんのかよアイツ。
「だが、彼女の指揮能力は本部も捨てたくないようだし、我々も結果はどうあれ彼女のがんばりを無下にする
ようなことはしたくない。そこで協議の結果彼女を本部に戻すこととなった。だが、彼女自身はこれを拒否して
いる。よって強制的にそれを行う事にしたんだが、そうすると本来数週間で済む手続きが1年近くかかることに
なるわけだ。だが現状は1年などという時間を許さない」
「なんか大変そうなのは充分分かったが、それを何故俺に話す必要がある?」
「彼女は仕事熱心で頼んでもいないのに仕事をしようとする非常にいいんだが、困った特徴がある。
そこでだ、聞けば君は最近何でも屋なるものをやっているそうだな」
「あ、ああ……一応は」
「どうだろう。手続きが受理され彼女が本部に戻るまでの1年。警察機構の仕事を引き受けてもらえないだろうか。
基本的に彼女が行う仕事を君がアシストする形になる。なに、我々もなるべく簡単な仕事をさせるようにする。
もちろんそれなりの料金は払うつもりだ。なんなら君の言い値でも構わん」
一瞬―――――――世界が止まった気がした。
眼が光る、喉が鳴る、口が言葉を紡ぎだそうとする。
それに必死で制止をかけた。
ていうか、かけろ俺。
おいしい話には裏があるとはよく言うが、これほどいい事例はそうはない。
噛み砕くとあのダメ警官のお守りをしろってことだ。
できるわけがない。
そもそもそんなに失敗させたくないなら事務とかそういうのをやらせれば……と言いいかけてやめた。
多分それもポーレウスは拒否してるんだろう。
そうと決まれば、答えはただ1つ。
「悪いが、断らせてもらう。俺にも仕事を選ぶ権利ってのがある」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ」
断言!!
こればっかりは無理だ。
おっさんを見ると、手を顎に当てて何やら考え込んだ後――――
「だとすれば君は警察機構内で現在トップシークレットに指定されている事を知ってしまったわけだから
それを口外させないためにもある事無い事理由をつけて君を逮捕し、1年間寝心地最悪のベットと腹4分目
程度の食事しか約束されない石でできた部屋で過ごすことになるわけだ。冬を乗り越えられるといいんだがな」
ステキな脅しを睨みをきかせながら言い放ってくれやがった。
くそぉ………警察機構………………狂ってやがる。
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