今にでも倒れそうな身体に鞭打ってポーレウスのいる所まで歩く。
「おいっ! どこに行きやが――――」
「少し黙ってろ、テメエ」
どんな眼つきで睨んだのか自分でもよく分からないが、とにかくそれで犯人の奴は黙ったので別によし。
ポーレウスは酷く怯えているようにも見えた。
たぶん麻酔のせいでそう見えるだけだろうけど……いや。そういうことにしておく。
「あの、だいじょう……ぶ、ですか?」
「んな…わけ、ねぇだろぉうが………!」
気を抜いたらすぐにでも倒れるわ。
だからそれまでに言うだけは言っといてやる。
「お前なんか警官、やめちま、え」
「な! なんて事を言うんですか! 心外です!! だいたいカリムさん! あなた私のことをダメダメ
だとか言ってくれてますが、私は学校をトップで卒業して警察機構に就いたんですよ!? 全然ダメダメ
なんかじゃありません!! 自分で言うのは嫌味言うみたいで嫌ですがエリートなんですよ! 一応!!」
…………………………………………ゴメン、今なんか変なこと聞いた気がするんだけど。
落ち着こう、落ち着いたらそのままぶっ倒れそうだけど落ち着こう。
「お前が、学校主席で…警察機構に就職したエリー……ト?」
「そうです。ですからダメダメ言うのはやめて下さい」
胸を張って誇らしげになるポーレウス。
そんな眼の前にいる彼女からはエリートの"エ"すら感じ取れなかった。
「ぜってぇ……嘘だ!」
「なんでですか!?」
「当たり前だろう! ろくに調べもしないで人を犯人と決め付けたり! バイトに遅刻した理由すら説明
できなくて!! あげくバイトをまともに斡旋できない!!! そして今のたいして離れてもいない距離
で麻酔針外すような奴が!!!! エリート!? んなバカな話があってたまるか!!」
「し、失礼にもほどがあります!! 今日はたまたま調子が悪いだけです!!」
「そのたまたまで……俺は結構危ない状況に、イ ・ ル ・ ン ・ ダ ・ ヨ !!」
「お前ら! 俺を無視するんじゃねぇ!!!」
「黙っ、てろっ………!!!!」
「静かにしてて下さいっ!!」
俺とポーレウスの叫びに少し泣き顔になって怯える犯人。
それでも犯人の威厳とかそんなものがあるのか引き下がろうとはしなかった。
「おい!! お前ら!! さっさと黙らないとこの爆弾を―――――」
「黙れ、っての!!」
足元に転がっていた拳程度の大きさの石を下から上へ振り返らずに投げる。
鈍い音と麻酔針を撃ち込まれた時の俺のような間抜けな声とが聞こえて、それっきり静かになった。
「だいたいなぁ――――――――――!!」
「なんですか! カリムさんだって―――――――――――――――!!」
「それなら―――――――――!!」
「よくそんなことが…!! ―――――――!!!」
こんな後で振り返ればとんでもなく無意味としか言えないバカみたいな言い争いは俺が麻酔の効果で
倒れるまで続いた。
その一方で―――――――――。
「俺って何のためにここまでしたんだろう……」
「人生ってのは難しいからな」
「みたいだな。なんか泣けてきたよ」
「そうか。だがお前ラッキーだぞ。今日はこの街に警察機構の支部が建てられた記念日だからな。牢屋に
入ってる連中に特別にうな重と酒が出されるんだ」
「……おっさん」
「どうした? うなぎはダメか? なら寿司でもいいぞ」
「いや、俺……うなぎなんて食うの初めてだ」
「……よく味わえよ。さ、行こうか」
「ああ」
「警部〜、あそこの2人どうします〜?」
「ほっとけ! 帰るぞ!!」
「了解!!」
―――――――――事件はあっさり解決していた。
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