「……つ、疲れた〜」
夕暮れの光が眼に眩しい。
場所は昼前と同じ喫茶店だ。
あれから休む間も無くバイト探しをさせられたんだ、疲れないほうがおかしい。
「っだってのになぁ…ダメ20警官――――」
あれだけ俺をあちこちに走り回らせてだ、
「全滅ってのはどういうことだよ?」
正面に突っ伏しているポーレウスにそう言うと、勢いよく上体を起こした。
「何ですかダメ20って……!!」
「いちいちダメを20回も繰り返すのはメンドクサイ」
「なら言わないで下さい」
「お前がバイトくらい斡旋できる警官なら止めようと思ったよ俺だって」
「私はちゃんとバイト先をいくつも紹介したじゃないですか!」
納得いかないような顔でポーレウスがこちらを見てくる。
確かに俺が疲れるくらいに一所懸命にバイトを紹介してくれたという点は褒めてもいい。
「だけど、せっかく面接でいい雰囲気になったのにその後のお前の説明で全部台無しになったんだろ
うが!!そりゃあ人には得手不得手がある! だからってお前の説明の下手さは何かもうそんな領域
じゃないじゃねぇか!!」
どのバイト先も面接では手ごたえがあったし、雰囲気も悪くなかった。
だがポーレウスがいろいろ説明しだすと途端に顔色悪くして「帰ってくれ」ときた。
ああ、こんなことなら俺だけでやれば………
っていうか本当にこの女はどんなこと考えて説明したらああなるんだろうか?
まったくわけが分からない。
「そうだ―――」
「ん? 何かまだバイト先あるのか? でももういいぞ。ていうかヤメロ。本当に勘弁してくれ。
その場所だけ教えてくれれば明日にでも俺が1人で……いいか、1人で行くからさ。お前とは今日ここで
このままお別れしてずっとお互い会わないでいた方がいい。絶対に」
「何か引っかかる言い方ですね―――――ところでカリムさん。警官になってはどうですか?」
ケイカン?
ポーレウスの突然の発言に思考回路が一瞬止まる。
警官ってのはつまりあれか?
「お前みたいなダメ人間になれと?」
「……何で、そうなるんですか?」
「いやだって……さぁ」
「ま、まぁとにかくですね。バイトだと収入がずっと安定して得られるわけじゃないんですし、そんな生活
はよくありません。その点警察機構は給料も安定してますし、休みもちゃんとありますし、規則正しく生活
できます。ほら、ちょうどいいじゃないですか」
「俺はそういう堅苦しいのは嫌だ。だからお断りだ」
「堅苦しいって…そんなことは―――」
「身体面での話じゃない、精神面での話だ。規律とかそんなのは嫌いなんだ………じゃ俺はもう行くぜ?」
そう言って手元にあるコーヒーを一気に飲み干す。
うわ……砂糖入れてなかった…………苦い〜〜っ!!
顔にはそれを出さずに立ち上がってポーレウスを見ると、俯いて黙っていた。
こればっかりはどうしようもない。
本人が悪いと感じて反省しているだけまだマシってことにしとくか。
さぁ、どのみち明日からバイト探しだし早く帰ろ――――――
ドォンッ!!!!
「―――っ!! 何だ!?」
今の音は間違いなく火薬が爆発した音だ。
煙が昇っている方向を見る。
あの方向には確か――――――
「銀行です!」
声に振り向くとポーレウスも俺と同じ方向を見ていた。
「っ! すいませんカリムさん。私行きます!」
「ちょ…! おい!!」
止める声も虚しくポーレウスは人ごみへと消え去った。
おいおい……冗談だろう?
この会計俺が払うのかよ…?
途方に暮れかけそうになった俺を店員の声が引き戻した。
こんな時でも営業するなんて真面目ないい店員だ―――――――――とても。
冷や汗が頬を伝う。
唾を飲み込んで、営業スマイルの店員に告げた。
「………月末払いってできます?」
店員の顔が一瞬引きつった。
NEXT
TOPへ