何と言うか…そう、最近のカリム=ウォーレンの日々は平和だった。
 バイトも特に問題無くできたし、やり始めた「何でも屋」も少しだけど仕事がやってきた。
 何より山の中腹、自分の家の外から眺める風景は時間の流れを感じさせないくらい変化が無かった。
 だから…平和だった。





 そう、ドタバタすることなんてなかった。





 あの日までは――――――――





「ふぁ〜っ……眠い〜」

 今日もいい朝だ。
 さて寝ぼけた頭を起こしてバイトに行くか。

「おはようございます。さっそくですが……逮捕します」

 ベットの側に立っていた女が俺に手錠をかけ―――――

手錠!? ってかこの女ダレ!?

「さぁ早く立ってください。行きますよ」

 女は淡々と語り俺を立ち上がらせようとする。
 いや待て! 何なんだよ一体!

「ちょ…ちょっと待て!」

「待ちません。さぁ早く立って」

「あんた誰なんだ?! てか何で俺が手錠なんてかけられるんだよ!?」

「ポーレウス=ハンデブリタ。警官です。あなたに手錠がかけられているのはあなたを捕まえるためです」

「だーかーらー!!俺が何をしたってんだよ!?」

 警察に捕まるようなことをした覚えはこの街では無いぞ?
 だが女―――ポーレウスは淡々と答えた。

「何を言いますかこの詐欺師が。あれだけのことをしておいてよくそんなことが言えますね」

 ……俺が詐欺師?
 いやいや何のことだよ、そりゃ。
 どえらい勘違いしてないかこの女………?

「あのさ―――俺の名前言ってみてくんない?」

「? ハウンディ=ルイシウン。それがどうか?」

「おい! お前家の表札見たのか!? どうすれば今の名前と俺の名前を間違えれるんだよ!!」

「そんなもの偽装に決まっています。馬鹿馬鹿しい」

「うおぃ! じゃあこれは!!」

 机の引き出しから1枚の紙切れを取り出してポーレウスに見せる。

「住民登録票だ! ちゃんと街役所の手続きも済ませてあるぞ!!」

「なかなかの偽装書類ですね」

「待てよ! お前全然見ようとしてないだろうがぁ!!」

「犯罪者はそう言って自分を無実と訴えるんです。あなたとの会話は無意味です」

 ア……アカン。

こいつ絶対自分の意見押し通すタイプだ。



会話が会話になってない!



 俺だけがボール投げててキャッチボールになってないーー!!


「だからまずこの書類を調べろよ! そうすれば俺があんたの捕まえようとした犯人と別人ってわかるから!!」

「くどいですよ。大人しくしてください。それ以上反抗するなら強制的に連行しますよ」

「少しは人の話を聞けーーーーーーーーー!!!」

「いいかげんにしなさい! 往生際が悪いですよ!!」

「だから―――――!!」

「あ〜、カリムさん?」

「あ?」

「え?」

 唐突の声の乱入に俺もポーレウスも視線が声の方へと動く。
 そこには1人の小太りな中年のおっさん、もとい大家さんが立っていた。

「あなたは?」

「私はこの家の大家だ。それよりカリムさん」

「あ、はい?」

「あんた昨日バイト代が入ったからって先月滞納分も含めて家賃払ってくれたろう?」

「ええ。あ、もしかして足りなかったですか?」

「いや逆だ。だから朝の散歩も兼ねて釣を持ってきたんだ。そこのテーブルの上に置いといたから」

「あ、わざわざスンマセン」

「いいさ。ちょうどいい運動にもなった。それじゃ」

「はい」

「ちょっと待ってください」

 それまで俺と大家さんの会話を聞いていたポーレウスが帰ろうとする大家さんを引き止めた。

「何か?」

「いえ……彼はハウンディではないのですか?」

「ハウンディ……? あ〜! そこのカリムさんが入る前にいた人だよ。もう半年も前に追い出したよ。
あの人家賃を1年近く滞納してたからねぇ。それに比べりゃ1月しか滞納しないカリムさんは素晴らしいよ」

「半年……前に?」

「ああ。それだけかい? なら私はもう行くが」

「あ、はい。お時間とらせて申し訳ありません」

 そして大家さんが立ち去る。
 場にこれでもかというくらい重い空気が漂いだした。


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