「どうやら―――捕縛は諦めた方がよさそうですね」

 眼の前に漂う銃弾を見つめながらNo:11は確認するようにそう呟いた。
 No:11の眼前には手にした棒から蛇のように現れた水が、ある。
 No:11を狙って放った弾丸はその水の中に漂っている。

「それでは、死んでいただきます」

 No:11が殺気を鋭くして棒を持つ腕を振る。
 蛇のようだった水は一変して鞭のようになり、俺の足元の地面を叩いた。

「くっ!」

 咄嗟に右に跳ぶ、が既に水の鞭は意思でもあるように俺の顔めがけて一直線に伸びてきている。
 背を丸めて何とかソレをやり過ごした瞬間、腹に衝撃を受ける。
 何かと思えば、俺の顔めがけて伸びてきた水から枝分かれしたみたいに伸びてきた水の一撃だった。

「がは…っ!!」

 膝を折りそうになるのを堪えながらNo:11の方に1発撃って後ろに跳ぶ。
 放った銃弾はさっきと同じように、どこからともなく枝分かれして伸びた水に阻まれた。
 水を自由に操る魔具か――――!
 水の鞭の追撃はない。
 今は縮んで、振るうのにちょうどいいであろう長さになっている。

「ちっ」

 これが魔具だってちゃんと断定できる方から一気に倒そうと思って攻撃してみれば、何とも厄介な魔具
を持ってやがった。
 よりにもよって水だとは。
 ここはマズイ、俺にとって不利だ。
 左手に流れる川を見ながら舌打ちする。

「やっほうっ!!」

 我慢できなくなったとでも言わんばかりに、ガキ――No:12が声を上げて駆けて来る。
 近づくまで待つつもりもない。
 2発続けて狙い撃つ。
 だが、いつの間にか伸びてきていた水の鞭が銃弾からNo:12を守る。

「てやっ!!」

 No:12が跳ぶ。
 その少し上には水の鞭から枝分かれして切り離された人の頭程度の水球が。
 空中で1回転した勢いでNo:12が水球にカカトを喰らわせる。

 水飛沫ではなく、氷の雨が襲い掛かってきた。

「くそ……っ」

 左手で顔を覆って氷の雨が全て落ちるのを待つ。
 幾つかは掠ったがほとんどはハズレた。
 これはただの威嚇攻撃―――当てるつもりはないハズだ。
 氷の雨が落ちきるのと同時左手を下ろす。
 少し離れた場所にNo:11――――No:12の姿はない。
 なら、この瞬間を狙ってくる。

「―――――――っああああ!!!」

 できる限りギリギリまでしゃがみ込む。
 頭の上を何かが通り過ぎる。
 そのまま思いっきり後ろに跳んだ。
 風景が流れる。
 蹴りを放った状態のNo:12が見えた。
 さっき頭の上を通り過ぎたのはアイツの足だろう。
 迷わず太腿辺りを狙って撃つ。
 そんなに離れていないこの距離ならNo:11の魔具の防御も間に合わない。
 地面スレスレで跳んでいた身体が背中から落ちる。
 そのまま後転して衝撃を和らげて、結果を確認する。

「ひゅ〜〜、あっぶねーー」

 No:12がおもしろそうに言っているとおり、銃弾は奴の太腿を掠めただけだった。
 攻撃した態勢から反応できるあたりガキとは言えNo:ってとこか。
 にしても、No:12の魔具はやっぱりあのブーツで、凍らせる事ができるってのはNo:11の魔具と相性抜群
じゃねぇかよ、コンチクショウ。
 いや、相性がいいからこその組み合わせか。
 こりゃかなりキツイ相手だ。

「さっすが!」

 おもしろいって感情丸出しでNo:12が攻めてくる。
 ガキならではの身体を活かして次々と蹴りを繰り出してくる。
 だが、いくら遠心力なんかを利用しているとは言え、所詮はガキの身体だ。
 素早い動きだが、体重が無い分恐れる威力ではない。
 が、直接防御すれば魔具で凍らされるだろうからそれができない。
 とにかくそれらを避けながら銃弾を補充する。

「調子に…乗るな……!」

 回し蹴りを避けて、銃口を定める。
 トリガーを引こうとした瞬間、No:12の後ろから幾つもの水の鞭が襲い掛かってきた。

「がは……っ」

 腕、肩、あばらに肝臓に突き刺さるような衝撃を受けて吹き飛ばされる。
 地面をみっともなく転がって止まるが、起き上がれない。
 常に動いてるNo:12の近くにいる以上簡単に攻撃してこないと思ってたのが甘かった。
 水を自由に操る―――分かっているつもりだったがここまでだとは。
 水の鞭を仲間の影に位置させて、いざという時に先端から分裂して仲間には触れずに攻撃してくるなんて……!

「私は自分を過大評価するつもりはありません。手負いの獣だからこそ本気で始末します」

 ただ告げるだけ、といったNo:11の声。
 呼吸を整えてゆっくり立ち上がる。
 眼前には襲い来る水の鞭。
 その様子は最初に感じたとおり、蛇みたいだった。


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