ナリアナにドアを閉めさせて、そのまま少し待つ。
何も起こらない。
どころか、何でか説教が始まっちゃってるんだが。
とりあえずすぐに襲撃はしてこなさそうだ。
「ふぅ」
「なんか結構あっさりしてるんだねー」
一息つくと、そう言ってナリアナが面白くなさそうな顔をした。
こっちは冷や汗だらだらだってのにこの女は。
「ガキの方はともかく女の方は公私混同しない奴みたいだったからな。俺の捕縛…よりは人質の安全の確保を
優先させたんだろうよ」
「でも今、ここで私が殺されたりするかもー、とかって考えないのー?」
「人質ってのは生きてるから有効なんだ。傷つけたりしたらそれこそ向こうの足枷を壊すようなもんだ。
とりあえず向こうさんは俺が人質を傷つけるほどバカじゃないと判断したから条件を呑んだ」
「ふむふむ」
「だからって本当に1時間待ってくれるかどうかは分からないけどな。少しでも時間が稼げりゃ上等だ」
言いながらテーブルのそばの椅子を引き寄せて座る。
まだふむふむ頷きながらナリアナもテーブルを挟んで向かい側に座った。
何をするでもなく、何を話すでもなく、そのまま黙ったままで時間が過ぎていく。
時々ナリアナを見ると何やら考え込んでいた。
多分逃走のことでも考えてるんだろう。
何も言わずに目線を逸らして、手足を軽く動かしてみる。
……それなりに良くなってはいるものの、本調子ではない。
だからわざわざナリアナに人質―――のフリをしてもらったわけだが。
たかが1時間で本調子にまで戻ることはないが、時間があるだけ本当に上等だ。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「………早いな、オイ」
何かこの時計壊れてるんじゃないかって思うくらい、あっという間に1時間が経過したぞ?
まぁ…………経過したんなら仕方がないか。
「じゃあ行くけど…本当にいいのか?」
立ち上がりながらナリアナに銃を見せる。
人質のフリをお願いした時に結構な量の銃弾と一緒にあげる、と渡された。
今さらダメとか言われても大人しく返す気はないが、一応聞いてみる。
「いいよー、残念だけどその子も相棒と一緒の方がいいみたいだからー」
ナリアナの言葉に少しだけ驚いて銃を見る。
相棒。
そうか、それもそうだ。
ずっと使ってたからそんなこと意識もしなかったけど、確かにこれ以上ない相棒だ。
「じゃ、遠慮なく。ま、うまく逃げれる事を祈るよ」
ドアを開け、ナリアナに背中を向けたまま手を振って外に出る。
後ろ手でドアを閉め左右を見回すと、No:の2人はすぐに見つかった。
右の方、ナリアナの家から少し離れたところに2人は立っている。
走ったりはせず、歩く。
お互いの姿がきっちりと見える辺りまで歩いて足を止める。
左側にはゆるやかに川が流れている。
「ちょうど、ですね」
川側に立っていた女――No:11が口を開いた。
そのセリフは無視して2人を観察する。
まずNo:11。
水色の瞳と腰まであるだろう髪。
顔もそうだが雰囲気が落ち着いた女性と感じさせるんだが、No:だ。
やさしそうにも見える顔で何人殺してるんだか。
服装は上半身はマント覆われていて、下はロングスカート。
その全てが白。
右手には細長い棒のようなものを持っている。
恐らくあれが魔具だ。
そしてガキの方――No:12。
茶髪に黒眼。
服装は膝まであるブーツ以外は普通に半袖のシャツに短パンで、街で見かけるような元気な子どもたちと
大差がない。
が、あの雰囲気。
あのわくわくを押し殺しているような感じはきっと仕事を楽しむタイプだ。
それか年齢的に楽しいから仕事をしている、という感じかもしれない。
どっちにせよあんまり関わりたくないタイプだ。
魔具はそれらしい物を持ってないとこを見ると、あのブーツ…か?
こっちは判断しかねるな。
見た感じで判断するのはマズイが、ガキの方をNo:11がフォローするってところか。
どうにか連携を崩せばうまく逃げれるか?
「――レン? カリム=ウォーレン? 聞いていますか?」
「………聞いてなかった」
「では再度、簡単に。大人しく同行していただけるなら“捕縛”させてもらいます。それが叶わないのであれば
望ましくはありませんが――――死んでもらいます」
瞬間、トンデモナイ殺気に襲われた。
肌を刺す殺気。
これは……逃げるなんて無理だろう。
逃げさせてはくれない。
でも、それなら――――
「返事をいただけますか? カリム=ウォーレン」
「ああ、決まってるさ」
それなら――――話は単純だ。
「正面から挑んで、倒すしか、ねえだろ?」
問いかけながら、照準、トリガーを引く。
戦闘開始の銃声が1つ、その場に響いた。
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