「カリム=ウォーレンですね?」
本人かどうか確認する必要はない。
ただ、ナリアナ氏を助けるための時間が稼げればそれでいい。
だけど、カリム=ウォーレンもそんなことは分かりきっている。
「余計な会話は無しだ。お互い簡単に話を進めてこうぜ」
にやりと笑ってそう答えた。
ナリアナ氏の安全のこともある。
悔しいけどカリム=ウォーレンの言うとおりにしたほうがいい。
「分かりました。ではそちらから聞きたいことがあれば、どうぞ」
「じゃあお言葉に甘えて。まず、俺をどうする気だ?」
「さっきの会話は聞いていたと思いますが、あなたを捕縛させてもらいます。それが難しいようならば
殺すつもりです」
「捕縛…ね。じゃあ次だ。こいつ、殺されたら困るのか?」
そう言ってカリム=ウォーレンはナリアナ氏を示す。
質問の意図が読めない。
彼にすればナリアナ氏は人質でしかない。
何故そんなことを聞くのか?
「どっちなんだよ?」
「……私個人で言えば困りません。むしろ動けるようになって助かります。No:12にしても同じでしょう。
ですがディスウィリウムという組織からすれば困るでしょう。そして私たちはその組織の人間です」
とりあえず正直に答える。
するとカリム=ウォーレンは困ったように笑った。
本当に何なのか?
「ま、俺もこいつに助けられた恩があるからできれば手を出したくないんだ。つーことは、お互い理由はどうあれこいつに
傷はつけたくない、ってことだ」
「そのとおりですが…だから何だと言うんです? まさかナリアナ氏を解放してくれるとでも言うんですか?」
「ああ、別に構わないぜ」
「え?」
もうわけが分からない。
ナリアナ氏を人質にしたのは他ならぬカリム=ウォーレン本人だというのに、その本人が人質を解放してもいい、だなんて。
それとも嘘でこちらを困惑させるのが目的なのだろうか?
しかし、嘘をついているようには見えない。
いったい―――
「何が条件です?」
「簡単。1時間待てってだけだ」
「その間に逃げると?」
「準備するだけだ。1時間経ったらちゃんと1人で出てきてやる」
何を考えている?
私たちがその間大人しくしているとでも思っているのか。
いや………なるほど。
さっきの質問はそういうことですか。
「…………分かりました。どうぞ準備してください」
そう言い終えると同時に扉が閉められる。
少し間をおいてからNo:12が口を開いた。
「No:11! あんなのの言うことしんじるのかよ!!」
「認めたくはないけど信じたからこうなってるのよ。それにどうもカリム=ウォーレンもそれだけが目的だったみたいだから」
「それだけがって…時間をもらうことが?」
「ええ。ナリアナ氏を人質に使えばどちらとも迂闊には動かなくなる。そこでナリアナ氏の解放を理由に何かをもちかければ
無茶でないかぎり承諾するだろうっていう考えだったと思うわ」
「そんな楽なもんなのか?」
「だからこうしてるの。さ、時間もあるし私たちもすることをしましょうか」
「え? すること?」
急に言われても思いつかないのか不思議そうな顔をするNo:12。
気楽というのも困ったものね。
「気配感知の訓練をサボったことについて、と言えば思い出すかしら?」
「…………………はい」
観念したようにうなだれるNo:12を見ながら少し考える。
私たちを試してくれたカリム=ウォーレンのことを。
そう、試された。
ナリアナ氏が殺されたら困るか、というあの質問で。
あの質問の意図は、私たちが組織を優先して動く人間かどうかを判断するため。
もしあそこで別の答えを返していたらカリム=ウォーレンも違った反応をしただろう。
余裕か、それとも逆なのか。
どちらにしても油断してはいけない。
それに…忘れていたけども――――
「No:11?」
「どうしたの?」
「いや、お説教がはじまらないから」
「そう、そんなにお説教が好きだったなんてね。気づかなくてゴメンナサイね」
「ちが…!!」
「とりあえず。お説教の前に大事なことを1つだけ教えておくわ」
私が真面目なのを感じ取ったのか、墓穴を掘って慌てていたNo:12の動きが止まる。
軽く頷いて、告げる。
「手負いの獣を侮ると殺されることになるわ、気をつけなさい」
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