「予定よりも少し遅くなったわね」
少し離れた場所にナリアナ氏の工房を捉えながら呟く。
「とっとと行ってやることやっちゃおうぜー。暇だよーー」
「No:12。予定なら今頃ナリアナ氏と話をして行動を起こしているはずだったのよ。そう、誰かさんが
寝坊さえしなければ、ね」
「な…それはNo:11が起こしてくれなかったからだろ!」
「あなたもNo:を冠するなら睡眠時間の設定くらいできるようになりなさい。寝るだけ寝るなんてただの
子供でしかないわよ?」
「うう……」
言い返せなくなったNo:12が顔を背けた。
少し厳しくするとすぐこれなんだから。
「ほら、別に怒ってるわけじゃないでしょう? とりあえず仕事で失敗しなければいいから。集中しなさい」
「む。俺が失敗するって思ってんのか?」
「思ってないわよ。あなたが楽しさとかを求めながらだけどちゃんと仕事するのはよく知ってるわ」
「当然だっての! 今回もバッチリやってやるよ!!」
何とか機嫌を直せたけど、こういう扱いやすい点もどうにかしないと。
今すぐでなくてもいつか問題になる日がくる。
けど、とにかく今は仕事を優先しないと。
「で…これがNo:11が言ってたナリアナとかいう人の?」
「ええ、そうよ」
ナリアナ氏の工房を眼の前にしてNo:12が疑わしそうな感じをしている。
平然と答えた私もそうだ。
実際に見たことがなかったから普通の工房のようなイメージしか持っていなかった。
だけど眼の前にあるのは普通の民家だった。
「これが工房なの? なんてゆーか……う〜〜ん………」
「言いたいことは分かるわ。多分コレは生活用のものでちゃんとした工房が地下にあるんじゃないかしら」
「だよな。こんな普通の家にしか見えないのが工房なわけないもんな」
「ええ。じゃあ行くわよ?」
扉をノックする。
数秒待って扉が開かれた。
「えーと、No:の人かしらー?」
作業服らしいものを着た女性が顔を見せた。
髪を後ろでアップにしていることや顔が事前に見せられた写真と同じだ。
ナリアナ氏本人で間違いないだろう。
軽く頷いて話しかける。
「連絡させていただいたNo:11です。こちらはNo:12、私とパートナーを組んでいます」
「よろしくな!」
「No:12。あれだけ言ったのにあなたは――――!」
「ああー、いいよいいよー、元気な子供は好きだから私ー」
ナリアナ氏がしゃがんでNo:12の頭を撫でる。
No:12は嫌そうにしているが振り払うまではしなかった。
「で、何か連絡では物騒なこと言ってたけどー?」
立ち上がったナリアナ氏が話しかけてくる。
「ええ。あと少しまで追いつめた者が川に飛び込んで逃走しまして」
「それでこっちに人が流れてきたかどうかだけ確認してほしいってことだったよねー?」
「はい。さすがに捕縛してもらうわけにもいきませんから。それで、どうでしたか?」
「うーん。私も気をつけてはみたけどねー、四六時中川ばっか見てるわけでもないしねー」
「つまり…見てはいない、と?」
「申し訳ないけどもねー」
「そんじゃあさっさと探しに行こうぜー。どうせ遠くには行けないだろうしさ」
「そうね………その前に1つだけ。確かここには1人で住んでるんですよね?」
「そうだけどー?」
「では、家の中にいるもう1人の方は誰なのかご説明して、いただけますか?」
その言葉にナリアナ氏とNo:12の顔が驚きに変わる。
……No:12、何故あなたまでそんなに驚いているのかしら?
「な、中に誰かいるのか!?」
「No:12。気配感知の練習をサボってたことについては仕事が終わってからゆっくり話しましょう。それより
説明していただけますか?」
しまったという顔をしているNo:12は置いておいてナリアナ氏を見つめる。
「あーあー、いきなりバレちゃってるよー? カリムー」
呼びかけと同時に、少し困ったような顔をしたナリアナ氏の後ろに人が現れた。
銃を手にしている男性……カリム=ウォーレンだ。
銃は当然のようにナリアナ氏の頭につきつけられている。
No:12に動かないよう目配せしてカリム=ウォーレンを睨みつける。
想定していた事態の中でも最低な状況になってしまった。
どう動くべきか考える、と。
「わざわざご苦労さん。えーとNo:11と12…だっけか?」
こちらの緊張をバカにするようにカリム=ウォーレンが話しかけてきた。
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