「ふぅ…」
ナリアナの家の外に出て、壁を背もたれにして座り込む。
夜の空には雲が無く、月の光が辺りを綺麗に照らしていた。
少し前の方には、俺が流れてきた川が緩やかに流れている。
それ以外は木々という木々が広がっているだけだ。
この家を建てるためだけにこの周辺の樹を引っこ抜いたんだろうからディスウィリウムも暇な組織だ、とか
思いながら手近な小石を拾って川に投げる。
「にしてもわざわざNo:をよこすあたり周到だな、先生も」
話が終わった後の夕食を食べてる最中に、ナリアナからNo:から連絡があったと教えてもらった。
明日にはここにやって来るらしい。
洒落にもならない。
――石を拾って川に投げる。
生死の確認のためってことらしいが、死んだなんて思ってくれてないんだろうし。
せいぜい2人くらいだろうが、それでも充分にキツい。
やっかいな事になったもんだ。
だからってこっちの方針が変わるわけでもないけど。
――――石を拾って川に投げる。
アイツを助ける。
具体的にどうするとか、それに関しての問題点とかは何にもわかってないし考えてない。
でも、アイツを助けることだけは決定方針だ。
頷いてもう一度石を川に投げて立ち上がる。
石が川に飛び込んでいく水音は1度も無い。
投げた石は全部川の手前で落ちてしまってる。
体調はまだまだ悪いのに状況だけはどんどん迫ってくる。
これまでいろいろあったが、基本的に平和で、どこかうだうだして過ごしていた代償ということか。
それなら……払わないといけないんだろうなぁ、まったく。
「とりあえず―――――明日か」
呟いて家の中に戻る。
窓が少ないせいで外よりも暗い中をふらふらと歩いていると、キッチンの方から何か音が聞こえた。
「何だ?」
火事とかになってたら嫌なのでとりあえず見てみることにした。
2人入ればもう不便になるくらいのスペースしかないキッチンにはナリアナが立っていた。
「ナリアナ?」
「あれー寝てなかったのー?」
「気づいてなかったのかよ」
ずっとベッドを占領するわけにもいかないので、寝室に通じる廊下で寝ることにしたわけだが。
ナリアナが起きてここまで来たんなら絶対にそこを通ることになる。
幅も広くないし距離もないのだから気づかないハズがない。
「あーー、そういえば何か踏んだような気がしたけど。あれは毛布だったわけかー」
「オイ」
寝てたらそのまま踏まれてたのか。
後で寝場所変えよう。
「んで? そっちこそ寝ないで何してるんだ?」
「何か身体冷えちゃったから暖かいものでも飲もうかなーって。カリムーも飲むー?」
「じゃあもらうか」
「はいはいー」
そう言ってナリアナはもう1つカップを取り出して、暖めていたものを注いで渡してきた。
何回か息を吹きかけてから口に含む。
………………おーい。
「ただのお湯かよ」
「えー? 暖かくならないー?」
「いや、なるけど―――ああ、別にいい、もういい」
どうせ何か言っても無駄そうだし。
そのままただのお湯をちびちびと口に含む。
「別に言いたくなけりゃそれでいいんだけどな」
半分くらいただのお湯を飲んだあたりで何も会話が無いのが暇で話しかけた。
「なにー?」
「大したことじゃないんだが、復讐に満足したーとか言ってたよな?」
「言ったねーそんなこともー」
「誰か殺したのか?」
「……………カリムーは意外に酷い事聞くねー」
「だから言いたくなければそれでいいって言ったろ」
「う〜〜〜〜ん」
しばらく唸って、ナリアナはてへ、と笑った。
「実際のトコは分かんないんだよねー」
「は?」
「私ねー銃を作る方の才能はあったみたいなんだけどー、使う方の才能はからっきしだったのー」
「まぁ…いろいろ訓練はしないといけないよな」
「練習もしてみたんだけど全然だめでねー。だから組織に協力したのー」
「どういうことだ?」
「あの組織って表は公的な何でも屋みたいなことしてるけどさー、裏ではいろいろやってるみたいだし。
そのいろいろの中に軍の人間を殺すようなことも入ってたってことー」
「ああ―――なるほど」
詳しくは俺も知らないが、No:の人間はそういうこともしてるかもしれない。
アルたちはしてないだろうけどNo:1あたりならやってても疑問には思わない。
「聞いた事はないけどー、何人かは軍の人間も殺されてるんだろうから、もういいかなって。それにさー
こんなとこで独りでずっと暮らすなんて女としてはどうかと思うしねー」
言いながらナリアナが下ろして背中まである髪をいじった。
服装も作業着ではなく普通の寝巻きで、どこにでもいそうな女に見える。
少なくとも――――
「まぁ、こんなとこにいるのは似合わないな」
「でしょー?」
そうしてお互い笑みを浮かべる。
悪くない、と思った。
「んしょ、っと。じゃ私もう寝るねー?」
「ああ」
寝室に向かいながらお休みーと言ってくるナリアナに手を振る。
ドアが閉じられ姿が見えなくなってから残りのお湯を一気に飲んだ。
ただのお湯はただのぬるま湯になっていた。
悪くない、と思った。
慌ただしくなるだろう前に、こうしてのんびりした時間を過ごせたのを悪くない、と思った。
「明日、か。どうにか切り抜けれるといいんだけど」
カップを軽く洗ってから明日に備えて寝ることにした。
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