「で、なんだっけ? うまく逃げる?」
「そ。逃げ出したいのよ、私ー」
とりあえず飯を先に食い終えた。
本当はあまりのんびりもしてられない。
とっとと動きたいのだが―――――銃の事がある。
いくらなんでも武器無しってのは問題だ。
なんとかしないといけない。
なので、仕方なくナリアナの話を聞いてみる事にした。
「何でだ?」
「え? 何が?」
「いや、だから、逃げ出したい理由」
「ああー、……………」
「……………」
「…………………………」
「…………おい!」
何でいきなり会話が終了してるんだよ!
ああやっぱりわけがわから――――
「満足したから」
「―――へ?」
「銃を作るのに満足したからー」
「……ふーん。そういえば、何で銃を作ってるんだ?」
何となく気になった。
年齢はよく分からないが俺と同じくらい。
そんな年頃の女がこんなとこで1人で銃を作ってた、その理由。
「それっぽい理由なんだけどねー。家族が殺されたのよ、軍に。こう…銃で頭に1発打ち込んで。
私はその時子供だったからさすがに銃で撃たれこそしなかったけど、それでも捕まえられてねー。
しばらくわけもわからないまま牢獄の中で生活してたら、わけもわからないまま放り出されたの。
何でって思ってたら軍のお偉いさんが大勢やって来てお金を渡した。理由を聞いてみたらアイツら
間違いでした、だって。何を間違えたかは知らないけど、間違いで私の家族は殺されちゃったのよ。
だから軍の持ってる銃以上の銃を作って復讐したやるんだ、ってね。それが理由ー」
「あー………」
会話開始数分で場の空気(少なくとも俺の感じる)が暗い。
何か軽い気持ちでけっこう重要なこと聞いちまったっぽいし。
「あー……」
困った。
言葉が見つからない。
「どしたのー?」
「あー、いや、その…」
「その反応は……もしかして愛の告白ー?」
「違うわ! どうしてそうなるんだよ!!」
少しでも気を遣ってたっぽい俺がバカみたいだろうが!
まあいい。
本人が気にしてない風にしてるんなら俺も気にしないでいよう。
「ん。まあ理由は分かったけど、だからって俺に聞かなきゃならないほどなのか? 別に常時監視されてる
わけでもなさそうだし割と自由そうに暮らしてるじゃねえか」
「そうなんだけど、満足しちゃったことを続ける気はないしねー。でも私がこういう生活してるのは銃を
作れるからなわけだし。ほら、何かもーうまくいきそうにないでしょ? 私と組織」
「つまり…銃を作るのを強要される前にアンタの方から手を切ってやろう、って?」
俺の確認にナリアナはこくん、と頷く。
なるほど。
先のことを考えたからこそ、か。
だけどこの話って―――
「なぁ、もし俺がここにいなかったらあんたどうするつもりだったんだ?」
逃げるって考えがある。
だから今こんな話をしてる。
でも、それは俺がいるから成り立つ話だ。
もし俺がいなかったら話とか以前の問題だぞ?
「んー…………どうしてたかな?」
「知らねえよ」
「えへ、ラッキーガールだねー私」
ダメだこいつ。
計画性があるんだかないんだか。
――――多分ないな、うん。
「はぁ………で、準備とかは少しくらいしてるのか?」
「手荷物の準備くらいは。なに? 教えてくれるのー?」
「教えるっつーほどじゃないけどな。アドバイスみたいなもんだ」
「……嬉しいけど、こうホイホイ話が進むと気味が悪いねー」
「じゃあやめるか」
「あーあーあーうそうそうそーごめんなさいー」
「んじゃ話す気無くすようなことは言うなよ。割と真面目に話すんだから」
「はーい」
立ち上がりかけた身体を椅子に戻す。
そのままメモの用意をしているナリアナを手で制した。
「メモは取るな。全部頭で覚えろ。メモをそのまま持ち続けるなら別だが、やぶいて捨てたり燃やしたり
して処分すると魔法で復元されて追跡されるのが早くなる」
「ふむ。そうなんだ?」
「ああ」
って言ってもこれは何でも屋やってる時に知った知識なんだけど。
まぁ役立つは役立つだろうし。
「逃走手段だけど…俺の場合はいなくなっても代えのきく駒だったから警戒も何も無かったけどアンタは
そうじゃないからな、多分いないってのがバレたら警戒されるだろうな。定期連絡とかはあるのか?」
「うーん…特に決まってないかなーそうゆうの」
「じゃあ駅がある一番近い街までは歩いてどれくらいかかる?」
「詳しくはわかんないけど2日くらいだと思うー」
「微妙だな、そりゃあ。運次第か。あー、そのへんは自分でその時その時判断してもらうとしよう。とりあえず
汽車よりは船をオススメしとく。どうするかはやっぱり自分で判断してくれ」
「何か適当だねー」
「アドバイスってのはそんなもんだ。それに、逃走ってのは人の意見とかも大事だけど自分の判断の方が
もっと大事なんだよ」
「おおー、経験者の言葉だけあって重みが違うねー」
必要以上に感心しているナリアナはとりあえず無視して話を進める。
こっちが話して、時折質問される。
そんな感じで進んで、一通り話し終えたのは夜になろうとした頃だった。
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