「No:12……!?」
少し離れた所にNo:12はすぐ見つかった。
右腕は肩から、左足は太腿から千切れて血を流している。
No:12自身は自分の血で真っ赤になりながら短い呼吸を弱々しく繰り返している。
傷口さえ凍らせていたらまだ望みはあったのに。
…痛みで魔具を使うほど精神を集中できなかったんでしょうけど。
――――――助からない。
頭は冷静にそれだけ判断した。
別にこんな光景は珍しくもない。
任務で仲間が、パートナーが死ぬなんてよくあること。
「まだ、生きてる?」
できるだけ優しくNo:12に呼びかける。
声は聞こえていてもすぐに反応できないのか、虚ろな瞳は数秒かかってようやく私を見つめる。
「あ……なん、ばー……11…?」
「ええ、そうよ」
「ご、め……………ま、けた」
「私も負けたわ」
言って笑うと、No:12も笑みを浮かべて――――血を吐いた。
だけど、そんなもの気にならないのか、それともそれすら分からないのか血を吐いたまま笑い出す。
「はっ、は、はははかはっ! はっ! はは、ははは」
「No:12?」
「あの、オッサンめちゃ、く、ちゃ、つえーの。はは、も、いっかい、しょう、ぶ、してぇな、ぁ」
「…………回復すればできるわよ、きっと」
「そっか。なら、ちゃん、と、やすま、ねー、と」
No:12が眼を閉じる。
その頭を撫でた。
髪の毛は血で濡れて固まっているけど、構わず撫で続ける。
自分がどうなるかくらい分かっているはずなのに。
それでも私の嘘に答えたのだから、これくらいはしてあげないといけない。
しばらくそうして、弱々しい呼吸は聞こえなくなる。
撫でていた手を胸の上に移動させる。
心臓も動きを止めている。
完全に死んだ。
「あなたと組んでた期間はあんまり長くなかったけど…手の掛かる弟といるみたいで楽しかったわNo:12」
立ち上がり、しっかりと死んだNo:12の姿を見つめて歩き出す。
錯覚のようなしびれがある手を握って開き、通信機を取り出してスイッチを押す。
数秒のノイズの後に声が聞こえる。
『こちらNo:10。状況報告を』
「こちらNo:11。標的カリム=ウォーレンと交戦、敗北しました」
簡潔に事実だけ述べる。
通信機の向こうのNo:10の反応は分からない。
そもそもNo:10がどんな人物かほとんど知られていないので想像もできない。
隊長の護衛者のような役割らしいけど、姿を見たことがある人もいないし、声も中性的なので男か女かすらも
判断できない。
『そうですか。それで、両名の負傷等は?』
「私は特に負傷は無いですが、魔具を紛失しました。No:12は……死亡、しました」
『了解、No:12はすぐに除名処理を行います。No:11はすぐに帰還してください。魔具回収班を向かわせます』
とりあえず会話して分かるのは酷く事務的な人間だということくらい。
死亡と聞いても声の調子に変化が無い。
「分かりました。あと標的のカリム=ウォーレンですが、"ドラグナー"が接触してきました。以降の追跡は困難になる
と思われますが、どうしますか?」
『――こちらから隊長に指示を仰ぎます。他に情報がなければ通信を終了しますが』
「こちらからは他に何も」
そう言うと、やはり事務的に返事をされ通信が切られる。
通信機をしまい、出そうになったため息を止める。
「いけない。集中、しないと」
呟いて無理矢理思考を掏り替える。
身体には報告したように特に損傷無し、行動も問題無い。
追跡者の気配も無し。
この分なら来たときの半分の時間で帰還可能。
それだけ把握して走り出す。
走りながらふと、これからどうなるか考えてしまう。
No:12の魔具はともかく、私の魔具の回収は難しいだろう。
恐らくNo:から降格される。
そして空いた席には何事もないように誰かが就くわけだ。
所詮No:だって代えのきく駒でしかないのだから。
「結局私もNo:12と一緒ね」
それもいいかもしれない。
そう思って走る速度を上げた。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「それでは一緒に来ていただく」
「大体予想はできるがどこに連れてかれるんだ? 俺は」
No:11が去った後、ヴォルスが持っていた塗り薬で応急処置をしていざ出発という感じになった。
が、その前にとりあえず聞いておくことを聞いてみる。
「私が所属する"ドラグナー"の本部…要するに我が国ギアークスだな」
ヴォルスは特に迷うでもなくさらりと答える。
まぁこっちも予想してたとおりなので特に気にせず次の質問をする。
「で? 俺を連れてく理由は?」
「済まないが私は詳しい理由は知らされていない。ので、向こうに着いてから直接聞いてもらうことになるな」
表情が分からないが、嘘には聞こえない。
が、本当だとも言い切れない。
こーゆうのはやっかいだよなぁ。
「まぁ今あれこれ考えても仕方ないか。んでどうやって移動するんだ?」
まともな勝負になるとは思えないが、それでも銃を抜けるようにはしておく。
……狙いをつける間に突撃槍突き刺されてぶん投げられそうだけど。
「ふ。私はドラグナーだからな、もちろんコイツで移動する」
そう言うとヴォルスは突撃槍で地面を数回突付く。
次の瞬間、いきなり影に覆われた。
「は?」
ヴォルスの後ろ、太陽を背にして竜が音も立てずに現れていた。
正直なとこ、竜種を見るのは初めてなんだが……………
でけぇぇぇぇ!!!
No:11の水球もデカイと思ったが、あれが丁度胴体と同じくらいで………でか!?
わーりゅうってあんなにおおきいんだー(棒読み)
え、あ、うわ〜ダメだ、無理無理、こんなん絶対勝てないって。
「これに乗ってもらうわけだが―――大丈夫か? 顔が青いようだが」
「へ、平気だ。早く行こー…って待った待って少し待て!」
一気にまくしたててヴォルスの返事も聞かずに駆け出す。
目指すはナリアナの家。
ノック無しで力任せにドアを開く。
「ナリアナ!」
「すか〜〜………ふぇ? カリムー?」
このヤロウ人が外でドンパチやってる中寝てやがった、じゃなくて!
「来いっ!」
「え? え? なに? はっ!? もしかしてこれが俗に言う駆け落ちー?」
「違う! 断じて違うが、とにかく来い!!」
慌ててんだか慌ててないんだかなナリアナの手を引っ張ってヴォルスのとこまで戻る。
「カリム=ウォーレン? その女性は?」
「ナリアナだ。ディスウィリウムの作業員…みたいなもんだったんだが、諸事情で逃げ出したいらしい。
なんで俺と一緒に連れてってほしい」
嘘は言ってない。
あんまりの竜のデカさに驚いてつい道連れにしてやろう、とか思ったりはしたが、これならナリアナも楽に
逃げだせるという考えも一応ある。
そうゆうことにしておく。
「別に1人増えようが困らないが…そちらの、ナリアナ殿は構わないのか?」
「あ〜、逃げれるんなら贅沢は言わないですー」
「そうか。では乗ってくれ」
そうして少し苦労しつつ竜の背中に乗る。
――身を屈めた竜と眼が合った時はちょっと足が震えたりしたが。
離れて見たときは茶色のようなウロコで固そうだなと思ったが、実際乗ってみると少し固めの毛みたいな
感触だった。
とりあえずこの大陸から離れることになったわけだが、ドラグナーと敵対することになった場合――――
――――死ぬなぁ、こりゃ。
どうか平和的に事が進みますように。
顔には出さないで必死に願った。
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