白い建物の白い部屋の中。
 白い祭壇に私は立っている。

 どれくらいかそこで立ち続け、人が来たことに安堵する。
 もちろん、誰かが来るから立ち続けていたのだけれど、安堵する。

 祭壇の少し手前で立ち止まった人物に声をかける。

「ご苦労様です、"現象具現者"」

 現象具現者は笑みを浮かべて礼をする。
 顔を上げ、口を開こうとして、

「…失礼します」

 もう1人部屋の中へ入ってきた。
 現象具現者は口を閉じて現れた人物を一瞥し、自分の隣まで来るのを待つ。

「久しぶりですね、ご苦労さまです」

 もう1人の人物――ティウル=アンバークルが現象具現者の隣で立ち止まったところで声をかける。
 ずっと外で活動していた彼に会うのは本当に久しい。

「いえ、たいした事ではございません」

 そう言う彼の声が緊張しているのはすぐ分かった。

「ふふっ、久しぶりだからと緊張することは無いですよ? 落ち着いて」

 緊張をほぐそうと思ってかけた言葉に彼は一瞬さらに緊張したようだが、でもその次の瞬間にはそれも無くなり、
力強い声で答えた。

「お心遣いありがとうございます。ですが、問題はありません」

 その答えに満足して微笑みながら頷く。
 本当に大丈夫のようだ。

「わかりました。では各々、途中報告をしてください」

 私以外は2人しかいない部屋で、でも部屋全体に響くような声を出す。
 そうして順に報告が行われた。

◇◇----------------------------------------------------------◇◇

「天魔の器が無事に封印できて何よりです。けど、天魔がこちらの世界に現れた場合、器に直接入り込もうが、
そうでなかろうが、封印の結界は簡単に破壊されてしまうでしょう。そればかりはどうしようもないですから、
もしもそうなったとしても無理に抑えようとしないようにさせてください」

「はい。カリム=ウォーレンの件はどうされますか?」

 ティウルの受け答えに少し悩む。
 別に放っておいてもいい。
 何もできはしない、脅威とはなりえない。
 だけど、些細な障害にならないとも言い切れない。
 事はその些細な障害で大きく傾く可能性もある。

「一応"覚醒者"からは外しましたが、障害にならないとも言い切れないですからあなたの判断に任せます」

 結局そう答える。
 当のティウルは特に何も言わず頷いた。
 それでその問題は頭から追い出す。

「それで魔剣ですが…できればこちらで回収したかったですね」

「それができれば一番良かったのですがね。魔剣の持ち主、なかなかに強かったので。ティウルのとこの手駒と
いい勝負をするほどですから。そして肝心の私の能力は接近戦に向いていない。というわけで持ち主もろとも地中深くに
消えてもらうことにした次第です」

「仕方なかった、ということにしましょう。それで? 魔剣の持ち主の死亡の確認は?」

「そこまでしてはいませんが、なに、都市1つを壊滅させた地震です。いくら何でも生きてはいないでしょう」

 自信有りげに現象具現者は言い切る。
 が、私は楽観できない。

「もし生きていて魔剣も持っていた場合は厄介です。ティウル、申し訳ないですがあなたの手駒にその確認をお願いします」

「分かりました。そのように」

 ティウルとのやり取りを見て現象具現者が肩をすくめる。
 心配性だ、とでも思っているのかもしれない。
 でも、それくらいでないといけないのだ。

「聖剣については引き続き捜索してください」

「ええ、分かってますとも」

 軽く頷いて笑ってみせる現象具現者に頷き返す。

「では今回はこんなところでしょう。これからの各々の働きにも期待していますから、頑張ってください」

 2人は揃って礼で返して、部屋から立ち去っていく。
 姿が見えなくなるまで見送る。

 白い部屋の中で、1人だけになった。

 もう天魔が来るまで時間がない。
 2人にも、他の者にも語っていないが、正直今のこちらの勢力で対抗できるとは思えない。
 いざというときは―――――――

「私は、絶対に死ぬわけにはいかない。そのためならあらゆる手段を使う。そのためならどんな犠牲も出してもいい」

 自分に言い聞かせる。
 私は女神。
 死ぬわけには―――いかない。
 全てを無駄にするわけにはいかない。



第6章 〜それぞれの思い秘めしは、それぞれの者達〜  完


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