シャアアアアアッ―――――!!

 そんな滑らかな音を出しながら、小僧が速度を上げて迫る。
 氷の道は途中から少しねじれ、小僧の身体は横倒しのようになるが氷の道から落ちる様子はない。
 そして、こちらと衝突しそうになる直前で右腕を凍らせたのと同じ、前宙からのカカトの一撃。
 身体を捻って避けた、つもりだったが凍らされた両腕のせいで反応が鈍り、わずかにブーツの先が鎧に触れて
鎧の右半分も凍りつく。

「くっ」

 振り向けば通り過ぎていった小僧は氷の道を滑りながら遠く離れている。
 そしてその氷の道も小僧が通り過ぎた後は蒸発するように解けて消える。
 どうやら小僧の前後ある程度までしか発生しないらしい。
 と、考えているうちにも小僧は折り返してこちらに道を伸ばしながら進んでくる。
 一足先にやってきた道を避けて、小僧がやってくるよりも前に道に蹴りを繰り出す。

 道を利用して速さを加えた攻撃をする、ということは逆に道を使用しなければならないということ。
 ならばそれを砕いてしまえばいい。

 だが、繰り出した足は空を蹴っただけだった。
 やってきたハズの道がそこにはない。
 こちらの蹴りが当たるより先に、道は軌道を地面スレスレに変えていた。

「ひゃっほうっ!!」

 蹴った足を戻すのと小僧の攻撃は同時。
 しゃがみこんだ体勢から足払いの一撃。
 いくら速さがあろうが小僧の攻撃で倒れることはない。
 が、これで右半身は凍りついてしまった。
 どうにも―――氷の道での移動と、そこからの攻撃―――これが小僧の戦闘スタイルか。

「身体半分凍っても余裕のつもりかよ! ならこのまま全身凍らせちまうぜ!?」

 こちらが動揺する様子を見せないのを余裕ととったらしい小僧が叫ぶ。
 既に遠ざかっていた身体はさらに速度を増して残る部分を凍らせようと迫る。
 その速度でこちらまでの距離をあっという間に詰めて胴体へ蹴りが入り、凍りつく。
 そのまま時間を与えまいとするように後ろから追い抜きざまに足も凍らされ、小僧の宣言どおり首から上を残して
全身が凍りついた。

「へっ、いくらドラグナーで凄かろうが全身凍りついちゃどうしようもないだろ? 後はこのまま身体をバラバラに
砕くだけだけど何か言っとくことでもある?」

 周囲を回るよう滑りながら小僧が余裕の顔を見せる。
 身体は完全に凍りつき、これなら小僧の蹴りでも充分バラバラに砕ける。
 普通の人間なら既に死んでもおかしくないほどの状態。
 頭はこれ以上ないくらいに冷えた。

「――――な」

「え? 何?」

「惜しいな、と言ったのだ」

「惜しい? まさか騎士が命乞い?」

「その惜しいではない。いや、まったく――任務さえなければもう少し時間をかけてもよかったのだがな」

「―――おっさん。自分の立場分かってんの? あんたここで終わるんだぜ?」

「ならば、終わらせてみるがいい」

「!! そーかよ! なら、望みどおりバラバラにしてやるっ!!」

 ほとんど地面に道の軌道を展開し正面から小僧が滑ってくる。
 狙いは恐らく上段蹴りを胴体に、だろう。
 迫る小僧を見据えて動かない身体に力を込める。

 血が循環速度を上げる。
 細胞が、身体が熱くなり、凍っていた身体が内側から熱を持つ。

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 小僧が攻撃しようと身体を動かし始める。
 それに合わせて身体に込める力を強める。
 叫び声と共に全身の氷は弾けて宙を飛んだ。

「なっ!?」

 小僧はまるで不意打ちされたように攻撃しようとしていた身体を強張らせた。
 その隙を逃さない。
 小僧の右肩へ突撃槍を最速で突き刺す。
 小僧の右肩はそのまま壊れて無くなり、千切れた右腕と小僧の身体は衝撃で吹き飛ぶ。
 間髪いれずに、血を撒き散らして転がる小僧を追いかけるように駆け出す。

「な、がっ……! ああっ…!! え? え、っええ?!」

 小僧が何とか身体を起こし自分に何が起こったのか理解したようだが、遅い。

「魔具保持者との戦闘経験はまったくといってないのでな。いい経験ができた」

 背後から声をかけられてようやく気がついたのか、小僧の身体がビクリとはねる。
 だが、血が止まらない右肩を左手で抑えながら動かないでいる。

「ん? どうした? 起死回生でも狙っているのか?」

「ったり前だろ!」

 叫ぶと同時に、小僧の足元から先の尖った氷塊が襲ってくる。
 が、こちらに届くより先に左腕の一撃で粉々に打ち砕く。

「な、んで…? 砕かれ、る、んだ、よ?」

「分からないのか? ならいい経験の礼だ、教えてやろう」

 こちらに振り向いて信じられない、といった顔をしている小僧を見据えながら突撃槍を逆手で持ち上げ、
左足の太腿ごと地面に突き刺す。

「う、あああああああああああああああああああああああああ!!!!! あ、が、ああああああああ!!!」

「氷は所詮氷だ。砕けぬ道理は無い」

 片腕片足を失った小僧は地面を転がりながらあらんかぎりの声で叫ぶ。
 今の言葉もちゃんと聞こえているか怪しいが、どのみち問題はない。

「少々手荒で済まないが、女子供でも敵である以上は容赦はできん。が、女子供を殺すつもりもない。
悪いがそれで自由な行動を封じさせてもらった、ということにさせてもらう」

 小僧の返事の叫び声を聞いて背を向ける。
 引き抜いた突撃槍を持ち直して、先程から轟音が聞こえる方向へと視線を移す。

「ふむ。負けるとも思えんが……とりあえず援護できる場所で待機するか」



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