地に足をつける。
振り返ればそこには土煙しか見えないが、敵の位置は分かっている。
その敵がまだ立ち上がってもいないのを確認して、近くの木に突き刺さっている得物の突撃槍を右手で
引き抜く。
「それにしても…これが魔具とやらか」
まだ何とも判断しかねるが、厄介なモノだというのは完全に凍り付いて動かせない左腕が語っている。
あの時。
もしあの小僧を地面に叩きつけようとしていたらこの左腕は砕かれていた。
やはり何事も経験が大事だ。
見ているのと実際に味わうのとでは比べる事もできない。
「げ…ぐっ…! げほげほ、げほっ!!」
まだ土煙が漂う中で小僧が立ち上がる。
さすがに敵がどこにいるか分からないということはないらしく、一直線に駆けて来た。
「てやあああああああっ!!!」
烈火の如く怒った顔で繰り出してくる蹴りを突撃槍で受け流す。
先のやり取りで本気になったのか、魔具であるブーツからは冷気の白い煙が出続け、受け流している突撃槍も
徐々に凍りだしている。
だが、その怒っている小僧の顔の口元は、何と歪んでいることか。
「その歳で戦闘狂の片鱗を見せるか。嘆かわしいことだ」
「はん! だったら何だってんだよ!?」
振り向きざまに繰り出された後ろ回し蹴りを受け流さずに、上体を逸らして避ける。
今まで受け流されていた攻撃を急に避けられたことでわずかに動揺した小僧の隙を逃さずに突撃槍を胴体めがけて
突き出す。
が、まるで礼をするように身体を曲げて背中の皮一枚で一撃を避けた、かと思えば次の瞬間には前宙からのカカトを
右腕に喰らった。
迷わず後ろに跳んで小僧と距離を取る。
「ぬ………」
両腕が凍らされた。
なるほど、この実力なら少し生意気な口も納得できなくは、ない。
むしろ私が乱されているくらいか。
小僧の言葉に冷静さを欠いてもらわなくてもいい攻撃をもらっている。
「へっへ。どうしたのさ騎士のおっさん。言っとくけど謝ったって許さねーからな?」
言って小僧が足を振るう。
「ロード―――――形成」
振るわれた足の先から伸びてきた何かを避ける。
避けたものは薄くて人1人分の幅程度の、まさに氷の道みたいなもので、
その氷の道を、小僧が氷の上を滑るのと同じように滑って来た。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「ちょ、ちょーーーーっとターーーーーーーイム!!」
情けない声で叫びながら森林の木々の間を全力疾走する。
No:11の姿はかなり離れたところに見えるが、はっきり言って俺は追い詰められかけている。
俺の叫び声は一応聞こえているハズだが、当然のようにNo:11は無視して攻撃の手を休めない。
ズドン、ズドズドズド、ズドドン!
No:11の攻撃が俺の周囲の木々を貫いて地面に突き刺さる。
「―――っていうかちょっと!? ズドンて! ズドンて!! 木に穴は空くし地面は爆ぜてるしっ!!
どこの紛争地帯だよここ!! 怪我人相手に少しマジになりすぎだろ!?」
相手がNo:11だけになったのがチャンスだなんてとんでもない。
あのあといきなり向こうが本気になって、以降はこの有様だ。
いや、元々水の鞭を川に繋げて大量の水で攻撃されるのは予想してたけど、それが初っ端からだとは
考えてもいなかった。
川に接続された水の鞭はもう鞭だなんて生易しいものでなくなってる。
手にしている棒から少しと枝分かれして川に繋がれてる部分は先とかわらない細さなのだが、その先、
No:11の頭上には家1つぐらい呑み込めそうな水球が漂い、そこからは極太の、まさに触手が伸びている。
だから、馬鹿でかい水球はまるで触手の生えた化け物みたいに見える。
俺が抱きついたら両手がつかないくらいに太い木だって軽々と貫いてるあたり威力は洒落になってないし、
銃で千切り落とそうにも太さと勢いがついた水の触手は全弾撃ち込んでも平気で襲ってくる。
とりあえず全力疾走だけはやめないが、時々No:11との距離を見て離れすぎていたら方向を変えて回り込む
ようにしてNo:11の方へと走る。
離れすぎてNo:11がNo:12を助けに行ってしまっては意味がない。
いや、別にヴォルスに2人とも任せても全然問題無い気がしてならないんだけど、さすがにそれじゃあ
俺のこれから先が思いやられちまう。
「それに……」
木々に隠れるようにしながらNo:11に向けて走りつつ、左手で銃弾を1つ取り出す。
勢いよく迫ってくる水の触手を木を盾にしながら避けて、取り出した銃弾をソレに向かって放り投げる。
「赤の契約によりうまれし鉄槌」
期待せずに唱え、水の触手に触れた銃弾は予想どおりにはじかれて地面に落ちた。
『銃魔法』が使えないだろうことは分かっていたけど、これで確実なものになった。
が、使えないなら使えないでそれはもういい。
ヘタに期待して、いざと言う時に使えないことを嘆くくらいなら使えないということをさっさと確認しちまう
方がいい。
「つーことは、ハァ、勝負は一瞬、か。それも、ハ、制限時間つき」
ある程度までNo:11に近づいた身体の向きを、また逃げるために変える。
水の鞭の攻撃を喰らった分と、元々の体調不良が重なってあまり余裕がない。
今装填されてる銃弾を撃ったら次の銃弾を入れるのは辛いだろう。
だから勝負は一瞬で、6発で決めないといけない。
「っと!」
No:11が自分の武器で視界を隠してしまった隙をついて、木々の中でも若干太めの木の影に飛び込むようにして
隠れこむ。
木に背中を預けて座り込み、呼吸を落ち着かせる。
銃魔法は使えない。
これからはより一層銃の腕が問題になる。
そして今がまさにそのこれからの始まりだ。
これをしくじれば俺は呆気なく死ぬわけだが、勝つ。
勝ってみせる。
呼吸は次第に落ち着いたが、動悸はまだ激しく身体に響く。
No:11は俺を見失ったみたいで、水の触手を付近一帯の木々を貫き倒すとばかりに手当たり次第で攻撃してきたが、
俺が容易に見つからないからか攻撃を止めた。
「く、それじゃあ、勝負といくか…」
木の影から身体を出す。
No:11の姿を確認して、左膝を地面につけた状態で銃を構える。
No:11も俺が出てきたのに気がついたみたいで、再び水の触手を動かした。
巨大な水球から生えている水の触手は数十本とある。
その全てが、震えるように僅かに動いたかと思うと一気に迫ってきた。
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