背中を冷や汗がダラダラと流れていくのを感じながらフルプレートに向かって口を開く。
 もちろん場が静止してる今の内に銃弾を入れるのも忘れずに。

「確かに俺がカリムだけど……あんたみたいなのに呼びかけられることをした覚えは無いぞ?」

 だいたいこんなやつと関わりがあれば絶対に覚えている。
 フルプレートもそうだが、2メートルはあるだろう身長と俺よりはるかにいい身体つきはかなり目立つ。
 が、実際のところ覚えてるかどうかは問題じゃない。
 一番問題なのはこのフルプレートが、敵なのか、敵じゃないのか、だ。
 呼びかける声に殺意なんかは無かったが、だからって敵じゃない理由にはならない。

「確かに。こちらも貴殿とは初対面だからな、覚えが無くても当然だろう。ふむ、自己紹介が遅れたな。
私はギアークス国特殊騎兵団"ドラグナー"のヴォルス=サガ=ランセイムだ」

 普通に語ったその自己紹介に俺と、あとNo:11が反応した。
 頭から昔習った知識をひっぱり出す。





 この世界には3つの大陸が存在する。

 魔導大陸"ガウルセンシズ"
 魔兵大陸"ルルザレイラ"
 騎士大陸"ムルガラセル"

 魔導だとか魔兵だとかいうのはその大陸の特徴を表していて、歴史を重ねると共に自然に呼ばれるように
なったらしい。
 そして各大陸にはそれぞれ有名な組織がある。
 上から順に"ジックロウサー"、"ディスウィリウム"、"ドラグナー"。
 "ジックロウサー"はトップクラスの魔法使いで構成されるし、俺もいた"ディスウィリウム"は"ソールド"も
含め、魔法使いや剣士などで構成されている。
 そして"ドラグナー"は騎士で構成されている、と今では各大陸の代名詞みたいなものになっている。

 そんな現状で、一般では――その大陸の人間でさえも――"ドラグナー"が他の組織よりも弱いというイメージがある。
 自分の住む大陸の代名詞になるような組織を何故その大陸に住む人間までもが弱いと思うのかは、でもある意味
仕方の無いことだとも言える。

 原因は組織を構成する人数にある。

 一番多いのは"ディスウィリウム"で、"ソールド"数十名と訓練生まで含めると数百人の組織になる。
 次が"ジックロウサー"で、各国から選ばれた魔法使いや、正式な登録ではないがそこで働く魔法使いを含めると
約50名ほど。
 が、"ドラグナー"はなんとたったの6名からなる組織で全員が当然だが騎士である。
 騎士大陸は他の大陸と違って魔法の技術がロクに伝わっていない。
 そのためどれだけ強かろうが、6名しかいない組織が魔法が使えるものがいる組織と対等だとは思えない、というのが
"ドラグナー"を弱いと思う人の主な意見だろう。
 だが、現実として各組織の戦力を数値化した場合、"ドラグナー"は他の組織に劣るどころか、対等な数値を持っている。
 "ドラグナー"の騎士6名はそれぞれが魔物の中でも上位に君臨する竜と契約をし、竜の因子をその身体に宿している。
 故に騎士1人の戦闘能力が桁違いに高いし、加えて契約を交わした竜自体の戦闘力もハンパではない。

   だからこそ、組織の名がドラグナー――――――竜を駆る者なのである。





 確かそんな風に教わったハズだ。
 そして眼の前のフルプレート――ヴォルスはそのドラグナーだと名乗った。
 つまり…何でだ?

「ドラグナーが俺に声をかける理由なんて、それこそ思いつかないんだがな」

「それに関しては完全にこちらの事情によるものだ。事情についてはここでは言えないので簡潔に言わせてもらうが、
私と一緒に来ていただきたい」

「それは―――いや、いい。別にあんたについて行くのは構わない。んだけど…その前に先客の相手を済まさないといけない」

 今までご丁寧に攻撃してこないでいたNo:2人に視線を移す。
 ヴォルスも気にしていたようで、同じように視線を移してふむ、と呟いた。

 とりあえずこれならドラグナーまで敵になるって状況は無くなったハズだ。
 だけど、ドラグナーの方も完全に信用したわけじゃない。
 ホイホイついて行って、ギロチンでバッサリなんてこともありえる。
 それならそれでこっちは逃げてやるだけだが、この場は力を貸してもらおう。
 それくらいならバチは当たらないだろうし。
 いい方向に話が進んでくれて助かった。

 No:11が難しい顔をしてこっちを睨みつける。

「参りましたね………ここでドラグナー……だなんて…!」

 さっきまでの有利な状況が一気に引っくり返されたわけだから、悔しい。
 だけど邪魔者はあろうことかドラグナーを名乗った。
 いくらNo:でもドラグナーとの交戦経験は無い以上いきなり仕掛けるわけにもいかないし、何より大陸間での問題に
なりかねない。
 と、まぁ心情的にはそんなところだろう。
 ドラグナーのこの行動は非公式のものだと思うから大陸間の問題にまで発展することは考えづらいが、でも迷う材料にはなる。
 と、No:11が判断しかねているのを見てNo:12が呑気そうに口を開いた。

「何迷ってんのさ? ドラグナーって言ったってあれだろ? 騎士道とか言いながら剣だの振り回してるような奴らだろ?
一緒に殺っちゃえばいいじゃんか」

「No:12――――――!!」

 No:11が手遅れも承知でNo:12に声を上げるが、どうしようもなく手遅れだった。










「ほう―――――――――――――――言ったな、小僧?」










 No:11が俺に見せた殺気と同等かそれ以上のものが、真っ直ぐNo:12に突き刺さる。
 顔まで覆うヘルムから唯一除く眼は怒りを隠そうともしていない。
 No:12も突き刺さる殺気にようやく脅威を感じたらしいが、No:だけあって身体の震えを出さないようにはしている。

「カリム=ウォーレンさえ無事に連れて行ければそれでよかったのだが、相手に敵意がある以上戦闘は避けれない、か。
さて、カリム=ウォーレン」

「あ? ああ、何だ?」

「小僧の方は私が引き受けよう。貴殿には残る方を任せるが、構わんな?」

 俺にそう言ったヴォルスの手には既に握られていたはずの突撃槍がない。
 あれ? と疑問に思って―――

「No:12!!」

 No:12に迫っていた突撃槍を防ごうと水の鞭を壁のように広げるNo:11の叫び声が響いた。
 水の鞭の展開は間に合っていたものの、突撃槍は簡単に水の壁を突き破ってまだ自分に迫るソレに気がついていない
No:12の顔を貫こうとして、

「う、わあああっ!!」

 間一髪顔を逸らして突撃槍を避けた。
 だが、No:12の眼前には踏み込み、そこからまさに飛び掛ろうとしているヴォルスがいる―――!!

「へ? あああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 飛び掛ったヴォルスとNo:12はそのまま一気にすっ飛んでいく。
 あの様子じゃあ山道の方まで行っちまっただろう。
 にしても……ドラグナーの騎士ってのは全員あんな規格外なのか?
 突撃槍を投げたのはともかく、フルプレートの鎧であんな動きするなんて無茶苦茶だ。
 ドラグナーと勝負することになったらあれの相手するのかよー、頭痛くなるなぁ。
 と、ま、悪い考えは後にしてせっかくのチャンスは大事にしないとな。

「くっ!」

 No:11が後を追いかけようとするが、その前に足元に1発撃ち込んでそれを阻止する。

「カリム=ウォーレン……!!」

 足を止めて殺意を向けるNo:11と対峙する。

「そうはいかねぇ、とは言えなかったけど、どうやら楽には終われないみたいだぜ?」

「…減らず口ですね」

「それくらいしか出せるものがないだけなんだけどな」

 肩をすくめてそう答えると、No:11の顔が険しくなった。


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