アイツを助ける。
無茶だろうが何だろうがだ。
アイツから逃げてたような俺にそんな資格はないかもしれない。
でも、それでも――――がぼがぼがぐげぼげぼげぼががぐがぶっ……!!
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「がばっ…ぶはーーーーーーーーーーーーー!!!!」
な、何だ!?
慌てながら場所と自分の状態を確認。
場所は……何かごちゃごちゃしてるけど普通の民家っぽい。
身体は身体中が痛いのと、何でか顔だけ濡れてる以外は普通にベッドで寝かされてたみたいだ。
……どうやらディスウィリウムに捕まったわけじゃないようだな。
にしても、最近気を失って眼が覚めると景色がガラリと変わりすぎだろ。
とりあえず詳しく場所の把握を―――
「おー起きたー」
「―――――――――っ!!」
声は背後から。
遅すぎる反応なのは分かっているが、それでも素早く身体をそちらへ向ける。
そこには女が一人。
長めの髪で後ろの方でアップにしているが、それよりもボサボサしてる感じが強い。
服は何かの作業着みたいであちこち汚れている。
そして、手にはヤカンを持って俺を見ている。
「ええっと…あんたが助けてくれたのか?」
「そんなとこー」
「ここは?」
「私の家。あんた寝かせたのはいいんだけど今見たらうなされてたからさー」
「うなされてたのか……」
「鼻つまんで水注いでみたんだけど」
「殺す気かっ!!?」
ヤカンと顔だけ濡れてたのはそういうことか!
敵ではなさそうだが……
「いいじゃん。死んでないし、眼も覚めたんだし」
「助けてくれたことには礼を言うが、他に起こし方ってのがあるんじゃないのか?」
「うーん、そうなんだけどメンドクサイし」
…俺の命はメンドクサイってだけで左右されるようなものなのか?
「で? 何か食べられる? 一応ご飯にするとこだから食べれるなら用意するけどー?」
「……それじゃあ何か軽いモンでも貰えるか?」
「ん。じゃあこっち来てー」
川への着水の仕方が良かったのか、身体は痛むけど歩けないほどでもない。
ベッドから立って意外と背の高い女について行く。
寝てた部屋を出て、短い廊下を歩きリビングらしい部屋に入った。
テーブルの近くの椅子に座らされて女は入ってきたドアとは別のドアの奥へと消えていった。
リビングと言ってもそこまで広くもない。
俺の家と同じくらいだ。
「つまり…一人でここに暮らしてるってことか?」
ここがどこか詳しくは知らないが状況的に川の下流だろう。
うろ覚えの地図ではその辺りに村や街は無かった。
ただ森林が存在するだけだった…はずだ。
「んな所に一人で…か。何者だー…っと?」
不信に思われない程度で観察してみれば部屋の隅に無理矢理まとめたように鉱石が山積みされている。
そういえば寝てた部屋も何だかごちゃごちゃしてた。
「おまたせー。はい、どうぞー」
女がパンとスープをテーブルに置いて向かいに座った。
とりあえずいろいろ聞いてみるか。
「あんた一人暮らしなのか?」
「あむあむ」
「なんか鉱石とかあるけど職人とかの類か?」
「ずずーっ」
「ああ、一番肝心なこと忘れてた。ここってどのへんなんだ?」
「はむはむ」
「……………」
「あむあむ……ずずずーっ」
もしかして俺、口にされてないだけで迷惑?
とりあえず質問には答えてくれなさそうなので食事をすることにする。
「ねぇ〜」
「…んだよ?」
スープを口に運ぶ。
味は結構美味い。
「あむあむ、はむはむってパン食べる女の子ってときめかない?」
「ときめかねぇよ!!」
「うーん…流行りだって聞いたのになー」
「誰に!? どこで!!?」
「あ、私一人暮らしね。一応職人って言えば職人してるかなー。で、ここだけど一応川の下流だね。
住所は……ちょっと分かんないや」
「そこを先に答えて…いってぇーー!!」
「あんま叫ばないの。強打してるみたいなんだから、身体」
「………スイマセン」
痛みで何となく謝ったけど、俺悪くないだろ。
どっちかって言うと質問に答えるよりときめくかどうかを優先したこの女の方が悪いんじゃないのか?
ああ、もう、何で俺が出会う奴はまともなのが少ないんだ―――――
「てい」
ガスンッ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
殴られた。
何か鉄みたいなので手加減なしに。
しかも頭。
「こんの……イキナリ何だよ…!」
「失礼なこと考えてたでしょー? 勘だけどー」
「くぅぅぅ、一体何で殴りやがったんだ。マジで痛い…って! あ!!」
俺を殴ったモノの正体は俺の銃の銃身だった。
そういえば忘れてた…じゃなくて。
「俺の物で俺を殴るなよ! 返せソレ!!」
「やーよ。これ私のだもん」
「はぁ!?」
何だこの無茶苦茶な返答は。
もしかしてどっかのだれかみたいに『あんたのものは私のもの』とか言うキャラか!
「悪いけど、それだけは返してくれないと困るんだよ」
「私のものだから。そんなの知らないー」
「あのなぁ……! 何を根拠に自分のものだなんて言い張れるんだよっ!」
ここでテーブルを叩きたいけど叩かない。
叩いたら多分こっちの方がダメージを受けるから。
とりあえず視線だけ睨みつけるようにする。
女は別に怖がる様子も見せない。
「だって私のものなんだもん。むしろ返してもらったのは私よ? カリム=ウォーレン君」
それどころか、反応に迷う返答をしてきやがった。
どういうことだ?
何で俺の名前を知っている?
ディスウィリウムの人間なのか?
それなら何で呑気に俺を寝かせておいた?
一瞬だけ思考して、一番もっともな質問をした。
「アンタ……何者だ?」
「ん? 私? ナリアナ。この銃の製作者よー」
女――ナリアナ――はそう答えて、手に持つ銃をやさしく撫でた。
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