「退くだと?」
確かに…盾は何だか斬れてしまったが。
だからといって退く必要がどこいある?
怪我もこっちの方が酷い。
時間が経てば経つほど奴が有利なはずなのに。
だが、とにかく―――――
「助かるな」
言って奴の近くまで踏み込む。
そのまま奴の胸に剣を突き刺した。
手ごたえは、ない。
「幻想」
声は上から。
見上げると、追いつかれた時と同じように建物の屋上に奴がいた。
視線を落とす。
眼の前にいたはずの奴の姿は消えて無くなっていた。
「本気で安心した顔をしてオイテ……敵の言葉は信用しなイ。やはり判断力がイイネ」
「今のも――――」
「ソ。今まで半透明なものばっかりだったからッテ、自分の幻影まで半透明なもののわけないダロ?」
「当然だな」
「じゃア、またいつか来るヨ。その時は僕も今より強くなってルヨ」
「待て。1つ約束しろ」
「約束だっテ?」
「この剣を奪いに来るなら勝負する。だが、街の外で俺を襲え。街の人間を皆殺しにするなど何回もする
わけにはいかんだろう?」
「はハ、無関係などこかの街の人のために自分を犠牲にするのかイ? 偽善だヨ、それハ」
「どうでもいい。それで約束するのか?」
「―――――――いいダロウ………名前ハ?」
「デニス。デニス=ヴァンテパス」
「僕はネイム=フリトヴァ。仲間以外で名乗ったのは君が初めテダ。それを以って君との約束を守る誓い
としよウ」
その言葉が聞こえると同時奴の姿が見えなくなる。
仲間の所へ向かったのだろう。
言葉から察するにそのまま退いてくれるだろうが、このままここでのんびりするわけにもいかない。
急がねば。
「む…………むぅ」
しまった。
非常にマズイ。
右腕は剣を持っている。
左腕はありえない方向に折れ曲がっていて使えない。
そして眼の前には、宝が入っている袋がある。
「………持てない」
さっきまでは宝を背負って腰に紐を巻いていたが、今この腕じゃ紐が巻けない。
だけど宝を置いていくわけにもいかない。
「俺は…………一体どうすれば、いいんだ?」
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「いやーーーーーーーーー!!!! 私はか弱い一般人ーーーーーーーーーーーーー!!!!」
街の中をそんなこと叫びながら走る。
もちろん怖いというのが最優先されているからだが、助けを呼ぶという意味もある。
助けなど来ないだろうけども。
私も一応は危険な仕事してるんだから街中に漂う血の臭いに気がつかないはずない。
というか、ここまで酷いと一般人でも気がつくだろうし。
「へぇ、思ったよりは逃げるわね」
眼の前にさっきから私を追ってきている、デニスを襲いにきた連中の1人の女が現れる。
手には占いなんかでよく使うような水晶の珠。
「…っ! な、何なのよあんた!?」
「あら、逃げないの? それとも諦めて最後のお喋り?」
この女なんか、ムカツク。
ムカツクんだけど……勝負なんかできるわけないし。
「いきなり殺されるような事になってるなんて納得できるわけないでしょ!? 理由とか教えてくれても
いいじゃない!!」
「口封じよ」
「え?」
「だから、理由よ。ただの口封じ。これでいい?」
「え…っと――――」
口封じっていうと、世間じゃああいう意味なわけよね。
「理由も説明したし、そろそろ時間もあれだし死んでちょうだい」
「って、何かソレって理不尽ーーーーーーーー!!」
背を向けて逃げ出す。
だけどそこには女が立っていた。
「う……」
「往生際が悪いわね。心配しなくても痛くないから安心なさい」
女が手を伸ばす。
ダメだ、殺される……!!
「………どういうつもり? No:3」
そっと閉じていた眼を開けると、そこには女の手を掴んでいる、スーツを着た、確か女の仲間だったはずの
男が立っていた。
「状況が変わっタ。ここは退こウ」
「どういうこと?」
「あの使い手は魔剣の能力などは何も知らないみたいダ、1度も使わなかっタ。でも魔剣自体に自動で発動する
類の能力があったらしイ。どうやらあの魔剣は周囲に闇系統の魔力があると自動的に吸い取って力を増すヨウダ。
おかげで僕の盾も斬られたかラネ、このザマダ」
よく見るとスーツの男は左肩から血を流していた。
「でも何も退く事は―――」
「あるネ。長引けば勝てなくもないガ、それは君がいない場合の話ダ。君の使う魔具は闇系統だからネ。
彼に―――魔剣にとっては格好の餌でしかナイ。退こウ」
「……分かったわ。あなた」
それまで2人で話していた女が急にこちらへと振り向く。
「な…何よ」
「命拾いしたわね。ありがたく思いなさい」
言うだけ言うと女は男と一緒に歩き出していった。
そのままあっという間に姿が見えなくなる。
やっぱりあの女…何かムカツク。
「でも…助かったぁ〜」
「ふぃーあ」
「ひぃ!!」
背後からの突然の声に振り返る。
そこには満身創痍なデニスが宝の入った袋を口にくわえて立っていた。
「あんた…大丈夫なの?」
あちこち血だらけで、左腕なんて見れたもんじゃない。
とりあえず袋を地面に置いてデニスは口を開いた。
「ちょっぴし痛いな」
「あんたの返答に今さらまともな答えは期待してないけどね。お宝は無事?」
「うむ」
答えに信用できす袋の中を確認する。
上の方はいいけど、底の方は……
「って! あーーーーーーーーっ!!! 壊れてる! 再起不能なくらいに壊れてる!!」
デニスの胸倉を掴み上げる。
「どういうことよ! これは!?」
「いや、だから―――」
「だから!?」
「うむ、がんばった。と言おうとしてだな」
「がんばるだけじゃお金にはならないの……っ!!」
「待て。落ち着けシーラ。ほらあれだ、こうして見れば綺麗に見えたり…しないな」
「このバカーーーーー!!!」
「痛い。痛いぞ。特に今日は左腕でガードできんからなおさらだ」
〜〜〜っ!! そんなの――――
「知ったこっちゃあないわよ! このバカ! バカバカ!!」
しばらく蹴り続けてやる!
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