「幻想の剣」
異様に上体をかがめ、呟き、その体勢から一気に動き奴が通り過ぎる。
手には一握りの半透明な剣。
反射的にもギリギリで奴の剣を防ぐ。
振り返ると奴は建物の壁を蹴って、別の壁へと跳んでいた。
「幻想の槍」
半透明の槍の雨を避ける。
奴はさらに壁から壁へと跳んでいた。
「幻想の針」
奴が呟くのと同時に上へ跳んだ。
するとそれに続くように地面から針が突き出てきた。
路地裏のほとんどが鋭利な針で埋まる。
「幻想の刃」
空中で制止した状態の俺めがけて半透明の刃が飛んでくる。
剣を地面に突き刺し、身体の位置を変える事でそれらを避ける。
地面に着地する頃には針は無くなっていた。
奴は、壁を強く蹴り、こちらへと向かってきている。
「幻想の鎌」
背後から何かが迫ってくる気配を感じ取る。
だが、前方からは奴が迫ってきている。
「幻想の剣」
奴が半透明の剣を振りかぶる。
後ろに身体が地面と平行になるように跳ぶ。
俺の上を跳んできている奴が俺の首めがけて剣を振る前に腹に蹴りをいれる。
背中を何かが通り過ぎる音。
背中から地面に落ちた時にかろうじて見えたのは言葉どおり半透明のギロチンの刃のようなものだった。
奴はというと、俺の蹴りは問題ないらしく、空中で体勢を整えるときれいに着地して立っていた。
「避けるだけじゃ僕は倒せなイ」
それは、分かっている。
だが、攻めにいけない。
奴は能力上ほとんどどの距離からでも攻撃できるが、俺は接近しなければいけない。
さらに奴の攻撃は剣で弾こうとしてもすり抜けてしまうため、全て避けるしかない。
さて、どうしたものか。
「幻想の鎖」
どこからともなく現れた鎖が左腕に絡みつく。
「考えるのはいいケド、常に警戒しておかないといけナイナ」
「その通りだ。教訓として覚えておこう」
「なかナカ、おもしろい男だね君ハ―――――――まズハ、左腕をいタダク」
左腕に絡みついた鎖が少し音を立てたと思うと、ゴキバキという音を立てて左腕が複雑に折れ曲がる。
まるで……自分の腕ではないみたいだ。
「さテ、少しは剣を渡してくれる気にならないカイ?」
いかにも心苦しそうな顔をして奴が聞いてくる。
「まるで、不要な殺人は避けたいという顔だな」
「それはそうサ。僕はできれば人を殺したくはないンダヨ。まァ…君が僕の相手になりそうにもないという
理由もあるんだけドネ」
「残念だが、この剣は何があっても渡さん。それに街の人間を皆殺しにするように命じた奴の言葉など俺には
理解できん」
「残念ダ。では醜く足掻いテ、死ぬがイイ」
「……待て」
「何だイ? 質問などもう無いだろウ?」
「いや。さっきから荷物が重くてな。どこかに置いていいか?」
「…………構わなイヨ。荷物のせいで負けたなんて死ぬ前に言われても困るカラネ」
「うむ、助かる」
では、この隅の方にでも置いておくか。
「ちょっト………待ちたマヘ」
奴が驚くような顔でこちらを見ている。
「何だ?」
「それハ、何ダ?」
「後で換金する予定の宝を入れた袋だが?」
「今まデ、そんなものをどこに持ってイタ?」
何を変なことを言っているのだろうか。
「お前と会ってから戦っている最中もずっと持っていたではないか」
「僕にハ、その袋が君の身体並にあるように見えるんダガ、気のせいかナ?」
さっきから奴はどうしたのだろうか?
「あるな。それがどうした?」
「―――――君の発言は何かがおかしいんダガ」
「お前の言っている事はよく分からんが、そろそろいくぞ」
肩で剣を担ぐようにして俺は告げた。
奴はまだ驚いていたようだが、何とか落ち着いたらしい。
一気に奴の懐に跳びこむ。
片手しか使えない分を、身体を捻って遠心力を加える事で補う。
意外なことに奴が動いたのは剣が振るわれ始めてからだった。
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