「く…っ」
建物の壁に囲まれた路地裏。
そこで太ももに巻かれた包帯をきつく結びつける。
両太もも、腹部に2つ、そして肩と計5つの傷の応急処置が済んだ。
血の跡ですぐに追いつかれると思ったが、間に合って良かった。
それに肩に関しては対刃繊維のマントのおかげか他より傷が浅い。
これなら剣を振るうのには問題ない。
だが、しかし――――――
「これほど一方的な勝負になるとは」
予想以上に奴が強い。
"ソールド"のNo:というだけはある。
それと奴の使うあの魔具、幻想の瞳だったか。
あれの能力も厄介だ。
「幻にして現実、現実にして幻……」
まさに言葉どおりだ。
幻のように触れられないと思えば、現実のようにはっきりと突き刺さる。
「結局魔具の能力を喋ったようなものではないか」
「やはり君は判断力に優れるらしいネ」
声のした方を見る。
すると奴は建物の屋上からこちらを見下ろしていた。
「もシ、そのことに気がつかないなら君の判断力の評価をし直すところだったヨ。それニ、僕の相手に
すらなりはしなイ。もっとモ、今も僕の相手と言えるかどうカ」
「それは済まなかったな」
「そう思えるナラバ、もう少しいい戦いをしてクレ」
「善処しよう」
「それでイイ。でハ―――――――再開ダ」
言うと、奴が屋上から飛び降りる。
頭を下にして降りてくる奴との距離は数秒で無くなる。
その瞬間を狙って剣を構える。
「幻想の槍」
奴が呟くと、いくつもの半透明の槍が上空から降り注ぐ。
それを避けながら、後に続いて落ちてきた奴に向かい剣を――――――――
「幻想の盾」
奴を庇うように眼の前に半透明の盾が現れる。
剣を振り上げる真似をして、構えを変える。
俺の横を通り、地面に接するまでのその僅かな瞬間に見えた、胴体めがけて剣を横に振るう。
「幻想の壁」
半透明の壁のようなものが現れる。
それを蹴ることで落下していた奴の身体は横へ跳んだ。
当然、俺の剣もそれで避けられた。
「幻想の刃」
地面を転がる奴を追撃しようとして、眼の前に迫ってくる刃に遮られる。
「く、そ―――――」
身体を捻って何とか全てを避ける。
その間に奴は立ち上がっていた。
そして、向き合う形になる。
「今のハ、良かっタヨ。完全に真似に騙されタ。だケド、次は通用しなイ」
「そうだな」
「冷静ダネ。何かいい手でもあるのカナ?」
「そうだな」
「……そうでもないカ」
「1ついいか?」
「?」
「この剣を狙う理由は何だ?」
「説明する義理はないヨ……と言いたいガ、生憎僕も詳しいことは知らないンダ。君の持つその剣は
『いずれ来るであろう敵がこの世界で使うために送り込んだ武器だ。早い段階で確保、破壊せねばならない』
ということしか聞いてないんデネ。でモ、僕らはその剣を奪取せよと命じらレタ。ならバ、従うしかない
だロ。それこそが役割なのダカラ」
「そうか」
どこまで本当か知らないが、これがそんな剣だったとは。
知ったところで何が変わるわけでもないが。
「では僕からモ、その剣に固執する理由が聞きたいナ」
「簡単だ。この剣は約束であり、戒めである証明だからだ」
「そウカ」
「聞いたところで何も変わらないだろ?」
「君と同じくネ」
そこで会話は自然に途切れる。
奴の余裕な振る舞いに対し、こちらは体勢を整える。
そして、奴が動いた。
なんてことだ。
それは――――――――予想していなかった。
てっきり、俺が動くのを待つものだとばかり思っていた。
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