「"ソールド"のNo……ということはさっきの女も」

「そうダヨ。彼女はNo:2――"深闇"ダ」

「そうか。ならなおのこと急がねばな。さぁ、さっさと構えろ。魔具はどうした?」

 答えは無いが"ソールド"のNoは魔具を所持しているはずだ。
 だが、奴はそれを出さない。
 それどころか構えをとろうともしない。

 舐めるにもほどがある。

「どうしタ? 僕はこれで構わなインダ。早くきなヨ」

「言われなくても―――!!」

 助走をつけて大剣を左から右へ横に振るう。
 そんな中、奴は右手を顔の位置まで上げる構えをとった。
 それで防いだつもりか――――――

幻想の盾ヴィジョン・シールド

 奴の呟きと共に剣が止める、いや、止められた。
 俺の剣と奴との間に現れた半透明の盾によって。

「なっ――――!?」

「君は僕が魔具を出さないから舐めていると思っタ。そうだロウ? だがこの機に認識を改めたマヘ。
魔具とは何モ、武器の形をしたものだけではないノダヨ」

 後ろに跳んで距離を取る。
 ほぼ同時に半透明の盾も消失する。

「お前の魔具とは、まさか―――――」

「そのとオリ。僕の魔具はこの"幻想の瞳"ダ」

 そう言って奴は自分の義眼を指差す。
 規格外の大きさの義眼が魔具だったとは。
 さぁ、どう戦う?

「僕は自信過剰じゃあないカラネ。魔具の性能をペラペラ喋ったりはしないケドモ。1つだけ忠告しておいて
あげヨウ。そんなに――――――――――距離を取っていいのカナ?」

 奴が口を歪めて笑う。
 何かを仕掛けてくる、一体何だ?
 迂闊に動けないが、でもいつでも動けるようにする。

幻想の刃ヴィジョン・エッジ

 呟きと共にさっきの盾と同じような半透明な刃が周囲に現れる。
 数は――――――4つ。
 前と後ろ、後方斜め右下に真左。

「く―――――っ」

 身体を前に曲げて先ず真左の刃を避ける。
 そのまま前方に跳んで転がり前と後方斜めから迫っていた刃を避ける。
 立ち上がりながら振り返り、迫ってきている残りの1つを剣で弾き落とそうとして―――

半透明の刃は振り下ろした大剣をすり抜けた。

 そして―――――身体に刃物が突き刺さる感触。

「ぐぁ……!」

「へエ、剣を振り下ろした状態でなお回避行動ができるなんてネ。でも刺さるのは避けられなかったカ」

 刃物が突き刺さった腹部を見る。
 だがそこには半透明の刃なんてありはしなかった。

「これ…は?」

「不思議カイ? だが現実だヨ。君が相手にするものは幻にして現実、現実にして幻なのだかラ」

 それが奴の魔具の能力という、ことか。

「諦めナヨ。君がそれなりの実力者だろうが僕には勝てナイ」

「それは、俺を動けなくしてからにしろ」

「愚かダネ。本当に愚かダ。ただの剣じゃナイカ、どうしてそこまで固執するのカナ?」

「貴様らが言えた義理では、あるまい」

「まったくダ………幻想の槍ヴィジョン・ランス

 周囲には先ほどの刃とは比べようの程の数の半透明の槍。
 それらが一斉に俺に突き刺さろうとするよりも前に斬りかかる。

幻想の盾ヴィジョン・シールド

 半透明の盾にまたも剣が防がれる。
 しかし、その瞬間に剣を手放し、奴の側面へと回り込んで蹴りをくらわせる。
 簡単に吹き飛んだ奴の身体はそのまま近くの建物の壁に激突しなかった。
 空中できれいに体勢を変えると、まるで重力など存在しないかのように壁に足をつけて、そのまま俺の方へと
跳んできた。

 奴が、通り過ぎる。

幻想の刃ヴィジョン・エッジ

 避けきれ、ない。
 4つ、刃物が突き刺さる感触。
 身体に痛みが走る中、剣を拾う事は忘れない。

「これハ、驚いタ。まだそこまで反応するなんてネ」

 まずい、出血が酷い。
 どこかで体勢を立て直さないといけない。
 そう判断すると同時、懐から数個小さな球を取り出し、地面に叩きつけるように投げる。
 そのまま走り出すと、背後で閃光弾が激しく光っているのが分かった。


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「逃げタカ…」

 実力はともかく判断力はあるらしイ。
 でモ、どうせあの怪我だ、遠くにまでは逃げれマイ。
 それに彼も逃げようと思ってはイマイ。
 ある程度逃げて怪我の応急処置といったとこロカ?
 だが、これデ、僕の優位は確実のものとなったダロウ。

「時間はかけナイ。さっさと終わらせるとしヨウ―――――」

 そうして、歩き出す。
 この血の臭いが満ちた場所に長くいるのは気分に悪イ。
 本当ニ、早く終わらせるべきダ。


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