ナイフ屋の主人はかなり困っていた。
「だから…どうしてこれがこんな値段にしかならないわけ!? ちゃんとトレハン協会経由のまっとうな
品物なのよ! 私たちがあの遺跡にどれだけ苦労したか分かってるの!!」
そんなの知らねぇよ。
と、この眼の前の女性に言ってやりたい。
短髪の元気というか凶暴というかどっちともな女性に。
「確か……あの遺跡は1週間程で調べ終えれたはずだが。苦労なんて―――――」
「あんたは黙ってなさいっ!!」
パァン! といい音が響く。
勢いよく殴られた全身を黒いマントで包み、黒いヘッドギアか額当てかをつけて、漆黒の大剣を背負っている
全身黒一色な青年を見る。
その青年は殴られた頭をさすりながら1人何かブツブツと呟いていた。
あんたも苦労してるんだなぁ。
そう言ってやりたかった。
だがそれでも、私はこう言うしかない。
「さっきから言ってるようにウチではその値段でしか買い取れないんだ」
こんな行動を既に何回繰り返しただろうか?
もうすぐ3桁になろうとしている気がする。
「シーラいいかげんに諦めろ。このままここで1日過ごす気か? 協会に提出する書類は今日出さないと
いけないのではなかったのか?」
青年の言葉にシーラと呼ばれた女性が言葉を詰まらせた。
君らが店を出た後でだが、拍手を送ろう。
心の中でそう決める。
「…………し、しょうがない、わね。いい、わ。この値段で、ええ、いい、ですとも」
かなり無理しながらナイフを机に置く。
こちらも提示した値段分の金が入った袋を置く。
女性はさっとそれを懐にしまい、店から出て行った。
青年もそれに続く。
数秒後、何とも言い表しがたい奇声が聞こえてきた。
「まったく……確かにいい品物なんだがねぇ」
ナイフを手に取る。
歴史はたいしたことないがいいナイフだ。
だがいかんせんタイミングが悪かった。
「つい最近同じ形式のナイフを数点買い取ったんだよなぁ、これが」
呟いて、とりあえず先程の青年に拍手を送った。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「はぁ〜」
「どうした? ナイフのことをそんなに気にしているのか?」
「そうに決まってるでしょ!!」
怒鳴って隣を歩くデニスを見る。
デニスは私の視線など気にした様子もなく首を傾げた。
「売れたのだからいいではないか」
「そんな生意気なことを言うのはこの口!? この口なの!?」
「ひはい、くひほひっはふは」
「分かんないわよ!」
デニスの口を引っ張っていた手を離して一撃与える。
本当ならもっと高く売れてもおかしくなかったのに……。
「痛い、口を引っ張るな、と言ったんだ」
それをデニスが協会の仕事を思い出させるから…。
「? シーラ、どうした?」
「全部あんたのせいだーーーー!!!」
アッパーをデニスの顎にヒットさせる。
あ〜、ちょっとすっきりした。
ま、デニスには悪いけどね。
「今のはクリティカルヒットだったぞ。なかなか痛かった」
と、言いながらデニスは平然と立ち上がる。
――――――あんた殴りやすすぎるんだもん。
「しょうがないわよね」
「何がだ?」
「何でもない。さっさと宿を決めましょ」
「ああ。安いところがあればいいのだが」
そして私たちはまた歩き出した。
何か周りの人たちがヒソヒソと私たちのこと見ながら話してるきがするんだけど……気のせいよね?
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