魔具『ラティブクエイト』

 雷を溜め込み、また無限に増幅させ続ける手甲。
 そして溜め込まれた雷は自由に使用できるという。
 まさしく小型の発電機とも言える。
 そして、その魔具を使うのは―――――ちょうど格闘術に秀でた奴だった。





「せぇえのぉっ!!」

 振り上げた拳の先からいくつもの雷が鞭となって周囲の連中を吹き飛ばす。

……つうか俺まで殺す気ですか、サリスさん?!

 ちょうど俺めがけて迫ってくる雷の鞭を斬って吸収する。
 サリスの周囲にいた連中はもちろん俺の背後にいる連中までもが後ずさりしている。
 それでもサリスは止まるつもりなど無いように拳を横に振るう。
 その拳の先からは雷がまるで刃のように放出されている。

「雷刃…!!」

 振るわれた雷の刃に更に吹き飛ばされていく連中。

………だから、俺を殺す気か! サリス!!

 横から迫る雷の刃を斬る。
 そしてその時になってようやく連中は勝てないと判断したらしい。
 一目散に逃げ出してゆく。
 だが、サリスは止まらないでいた。
 構え、腰まで引かれた拳の先に雷のエネルギーでできた球が発生する。
 周囲に放電しだすほどにまでにエネルギーを高めて、拳を突き出す。

「雷哮!!」

 同時に球はビームのように逃げた連中の背後を追った。
 ・・・・・・・・・ち、ちょっと待て。
 今俺は位置的に逃げている連中とサリスの中間にいることになる。
 つまりは、サリスの攻撃はまず俺に迫ってきているわけで―――――――





「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」





 地面に剣を突き刺して、その場にしゃがみ込む。
 迫る雷のビームは剣に当たって吸収される中心を境に左右に分かれた。
 分かれたそれは、そのまま真っ直ぐ突き進み逃げていた連中を充分に巻き込んで地面に触れて爆発した。
 そして訪れる沈黙。
 地面から剣を引き抜き―――――思いっきり叫んだ。

「おいこらぁ!! お前、俺を殺す気かっ!!!」

 危うく何か変な溶け方して死ぬところだったぞ!?
 だが当のサリスはただ笑うだけだった。

「いいじゃない。 アルなら何とかすると思ってたしさ」

「あのなぁ〜」

 せめて何か合図くらいしろよなぁ。
 脱力していると、サリスが近寄ってきた。

「さ、カリムを助けにいきましょ」

「……そだな。その後どうするかはその時に決めるか」

 世界か家族かどちらかを選ぶか、それとも―――それ以外の道があるのか。
 思わず飛び出してきたがその方がきっと判断しやすいはずだ。

「そうと決まれば急ぎましょ」

 そう言ってサリスの手が俺の肩に触れる。  刹那

「ぎゃがぁあっ!!!!」

「…………あ、まだ雷残ってた」

 し、痺れる………っ!! 喋れん………っ!!
 駄目だ、不安になってきた………………!!

◇◇----------------------------------------------------------◇◇

 白い、白い、ただ白のみでできている部屋。
 ここを訪れるのは久しぶりだ。
 外で仕事をするようになって以来連絡は彼を通して行っていたために、本当に久しぶりだ。
 扉の無いその部屋に入る前に、立ち止まり深呼吸をする。
 ここを訪れるのが久しぶりならば、あの方に会うのも久しぶりだ。

「…失礼します」

 なるべく緊張は隠したがそれでも、やはり僅かに声に紛れた。
 と、そこには既に先客がいた。
 そこにいる男はこちらを一瞥し、また向き直った。
 彼の顔を見るのも久しぶりだ。
 それで自然と緊張も解け、前に進んだ。
 彼の横まで歩いて立ち止まり、目線を上げる。

 白い、白い部屋の、白い、白い祭壇に
 彼女は―――――あの方は、いた。

「久しぶりですね、ご苦労様です」

 その声に心臓が止まるかと思った。
 それ程に久しぶりに聞くその声は染み込んできた。

「いえ、たいした事ではございません」

 頭の中まで白くなりそうになるのを振り払う。

「ふふっ。久しぶりだからと緊張することは無いですよ? 落ち着いて」

 まったくもって彼女は分かっているのだろうか?
 そんな言葉でさえ私の中に響きすぎるということに。
 だが、同時に声が聞けたことがうれしくもある。
 ……そう、うれしいのだ。

「お心遣いありがとうございます。ですが、問題はありません」

 力強く、そう告げて彼女を見る。
 彼女は微笑んで頷いた。

「わかりました。では各々、途中報告をしてください」

 彼女の声が部屋に響いた。


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