「お前を……助けに、来たんだろうが」
不平そうな声でこちらを睨みつけるアル。
正直なところ助けてもらったのは感謝しているが――――
「アルは……決めたの? どんな道を進むか…」
私の言葉にアルが一瞬止まった……ように見えた。
が、意思ある眼でアルはきっぱりと答えてきた。
「そんなの、決めてない」
「―――――――――へっ?」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
その声を聞くとアルは思いっきり息を吸い込んだ。
「何だよ、しょうがないだろ!! 俺は! 世界が平和であって欲しいと思うし! 家族が傷つくのも嫌なんだよ!!
お前みたいにどっちか1つなんて決められないんだよ!!」
怒鳴るだけ怒鳴ってアルはまた呼吸を整えだした。
だとすれば、それは…
「世界も守りながら、家族も…カリムやファムを守るってこと? それって……凄く贅沢よ」
人はできる事が限られているんだから、どれかを選ばなければいけない。
だからどれもこれも……というのは贅沢か、自信過剰な馬鹿の考えだ。
でも
アルは私の問いに首を横に振った。
「違う。俺はどっちも守ろうと言ってるんじゃあ、ない」
「でも、決めなきゃいけないのよ?」
「わかってる……つもりだったんだろうな、俺は。きっと本当はよくわかってない。でも、俺は……
どっちかを選ぶのっては間違ってると…思う」
「どういうこと?」
「それは………よくわかんないんだけどさ」
「何よ、それ」
「と、とにかくだ! どっちも取ることができないのはわかるけど、どっちか選ぶ事も何か間違ってるんじゃ
ないかって思うんだよ! ……何となく!!」
「いや……結局答えになってないし」
「ぐぅっ……」
「でも……アルらしいかもね」
優柔不断で、でも一番幸せになれる道を探そうと悩む――――――アルらしい。
その男が何故額当てになると見境が無くなるのかは、よくわからないが。
「で、結局のところ現時点では私と行動目的は同じなんでしょ?」
「え? ……ああ、まぁな」
「じゃ残りの連中ぶっ飛ばすの手伝ってね」
そう言ってアルに背を向け、周囲を囲んだまま私たちの話が終わるのを気長に待っていた連中に視線をやる。
と、アルのぼやく声が背後から聞こえてきた。
「ったく……人使い荒いんだからよぉ…」
そして、それと同時に周囲の連中が襲い掛かってきた。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「よっ…と」
すれ違いざまに相手を斬りつけて、次の相手を眼で捉える。
つうか……何だこの数は?!
今の"ディスウィリウム"にここまでの人数を出せる余裕があるのか?
実力的にはたいしたことは無いとはいえ、これほどの人数を出せば戦力を落とすことになるはずだ――――
「それとも、"ソールド"のNo:だけで事足りるっての、かねっ!」
振り下ろされた剣を避けて、地面についたそれをそのまま足で押さえつける。
左右から迫っていた敵を斬り倒し、押さえつけていた剣の持ち主が剣を手放して武器を変えようとした瞬間に
斬る。
「今ので…100ってとこだな」
と、そこで―――――呪文の詠唱をしている魔法使いの団体に気がついた。
すぐさまサリスの方へと駆け出す。
俺は吸収できるから問題ないが、サリスではさっきみたいなことになりかねない。
だが、そんなことを考えている間に幾重もの雷がサリスへと降り注いだ。
周囲からは小さく歓喜の声が聞こえてくる。
とりあえず深呼吸し、使われた魔法が雷系統であったことに安堵した。
そして祈った。雷系統の魔法を使った馬鹿たちのために。
もしかすれば連中はサリスの2つ名を知らなかったのかもしれない。
だが、連中はあと数時間すれば終わるという所で、自分たちの状況を悪くさせた。
サリス=サーティグエナの2つ名―――"雷帝"
両腕の手甲から電気を迸らせて、文字通りのそれはにやりと、笑った。
無傷で姿を見せたサリスに連中は驚いたが、勇敢な数名がサリスに向かい駆け出した。
相手の武器とサリスの手甲とが触れる。
その瞬間相手は「ぐあっ!」とだけ叫んで気絶した。
少し離れた位置でそれを見て怯んだ相手の腹にサリスは拳を叩き込む。
緑か、紫か、はたまた白か。
判断のつきにくい色の光が輝いたと思うと、それは相手の身体を駆け巡る。
どさりと倒れた相手は、痙攣を起こして身体を何度か跳ねさせた。
その光景を連中と一緒に眺めながら、俺は呟いた。
「…ご愁傷……さま」
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