「さて、カリムは川に落ちたんだから探しに行くなら下流の方かな」
走りながら、そう決める。
急げば捜索に出たNo:より早くカリムに会えるかもしれない。
――――いや、できうるかぎり早くカリムと会わなければいけない。
「もっと…急がないと」
----------そうして走り続ける事、数時間----------
「どうりで、あっさり魔具が持ち出せたと思った」
少し広めの荒野。
そこに立ちはだかるように――実際そうなのだろうが――している大勢の人間。
先生が用意させたんだろう。
数は1000ってところだと思う。
まったく……先生はふざけているのだろうか?
1000人程度で――――――
私は止められない。
「サリス=サーティグエナ……だな?」
1000人の集団の先頭の男が確認のためでなく形式の上だけでそう聞いてくる。
分かりきっていることに返事してやる必要はない。
が、寒かろう空の下待ち続けていたであろう彼らに無言で殴りかかるのは少々申し訳ない。
ので―――――――
「殴り飛ばすからね」
とだけ断って、先頭の男の顔面を殴りつけた。
その男の側にいた連中は何が起きたかを一瞬理解しかね、理解しても驚くしかなかった。
彼らが驚いている間に魔具である手甲を両腕に装着する。
「敵わないと思ったなら退きなさい、見逃したげるから。挑むなら覚悟しなさい、容赦しないから」
とりあえず告げてやると、1000人―――でなく999人はいっせいに襲い掛かってきた。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
実際彼らは実力こそ訓練生レベルではないものの、たいしたことはなかった。
魔具の効果を使うまでもない。
普通の肉弾戦で問題なかった。
前から振り下ろされる剣を手甲で受け流し、空いている手でそいつの顎に一撃を入れる。
音と感触で顎が砕けたのを確信し、後ろから迫っていた奴に振り向かないで蹴りを入れた。
前と後ろの2人が同時に崩れ落ちる。
「今ので……496人目っと」
距離を開けて周囲を囲んでいる連中に聞こえるように呟く。
しかしいくらなんでも歯ごたえが無い。
無価値な時間つぶしは好きじゃないので、さっさと終わらせたいんだけど……
「諦めてくれそうには無い……よねぇ」
前の方から1人駆けて来る。
吐き出しかけたため息を飲み込んで、構える―――――と。
唐突に、顔に一筋の傷ができた。
傷は浅かったが血は流れてくる。
それが何であるかは考えるまでもないが、こうも唐突に来るとは。
「……魔法か」
駆けて来た奴の鼻をへし折って気絶させる。
そのまま、集団の中に駆け出した。
1人でいる以上先に後方の魔法使いから倒さないと。
「―――ああ、もう!! 邪魔なのよ、アンタら!!」
視界に入る者は片っ端から、気配が掴めるのは近くの者だけを殴り倒しながら進む。
その間にも、身体に走る傷は増えていく。
しかし…何故最初からこうしなかったのか?
私に魔法使いはいないと思わせるためだろうか?
だとすれば、結構生意気な連中だ。
「―――――――いた」
呪文の詠唱をしている人物を視界に捕らえ、そちらに足を向ける。
その魔法使いもこちらに気がついていたのか、早口になっているが、遅い。
唱え終えるより先に拳を腹へと突き立て、回し蹴りを首に当てた。
「だいたい……530くらいかな」
辺りを見回す。
魔法使いはまだいるはずだ。
と、それを裏付けるかのように周囲に馬鹿でかい炎の玉が現れた。
そして頭上には、これも馬鹿でかい氷の塊。
炎に焼かれるか、氷塊に押しつぶされるか、といったところか。
「火傷は嫌なんだけど……なっ!」
氷塊は砕けないだろうから、自ら炎に向かって突っ込む。
跳んだ身体はすぐに地面に触れ、転がりながら身体の熱を消そうとして―――――
「アレ?」
どこも燃えていないことに気がついた。
おかしい……あの炎に突っ込んでどこも燃えないなんて。
「お前は…ハァ…何てことを…ハァ…して、るんだ、かなぁ……ハァ〜」
「……何でいるのアル?」
そこには、魔具のティンガルで身体を支えて息を整えようとしているアルがいた。
何ていうか……疲労困憊?
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