「どういう…ことです?」
魔具まで持ち出したってのに、追いかけなくてもいいなんて。
俺の疑問はよそに先生は淡々と語る。
「ファム=レイグナーの封印を決定した時から彼女がここを出て行く可能性は高いと思っていたからな。
今まで彼女が我々に貢献してくれたことを考慮すれば、魔具を持ち出すのは許容範囲内だ」
「ですが―――――」
「それに私としてはこの先いつ姿を消すか分からんような者を使うつもりなど無いからな。早くに
出て行ってくれたのは助かる」
「本気で言ってますか、それ」
声が低く、怒りがこもるのが自分でも分かる。
早くに出て行ってくれて助かる?
本気で―――――――そんなこと言ってるのか?
「ああ、本気だ。だがNo:7。だからとてそれは私に殴りかかる理由にはならんぞ? 君が怒りを持ったのは、
君が彼女を追いかけたいのは、君がまだ何も決断していないからだろう」
最初の言葉に、殴りかかりそうになり。
その続きに、そのために握りしめた拳を押し留めることになった。
確かに……その通りだったから。
俺は、世界の平和か家族のどちらをとればいいのかサリスのように決断できない。
先生の言葉は続く。
「別に私は君がどういった決断を下し、どういった行動をしようが気にはせんよ。私に襲い掛かろうが
彼女の後を追いかけようが、このままいつもの生活をしようが、一向に構わん。だが、1つ言うなら
早急に決断すべきだな。今はそうしなければいけない場面だ。もし、決断しそこなえば一番悪い方向へと
君は進むことになるぞ」
「…わかってます」
「ならいい。ああそうだ、彼女の後を追うならば他の決断の場合より急ぐことだ」
「え?」
「彼女の予想進路上にNo:候補生を待機させている。いくら彼女でも無傷では済むまい」
「……っ!!」
聞いた言葉を理解して、身体が勝手に走り出した。
◇◇----------------------------------------------------------◇◇
「よかったのですか?」
天井裏から聞こえる声に私は肩をすくめた。
「どうせ彼も出て行くことは分かりきっていたんだ。それを早めてやっただけだ」
そう、予想では彼も彼女と一緒に出て行くはずだった。
そしてこれから先の予定は2人がいないことを当たり前としていた。
よって何ら問題ではない。
「ですが、魔具まで持ち出すのはやはり…」
「どうせ今現在彼ら以外に適性者はいないんだ。使えん武器を置いておいてもしかたあるまい。それよりも
No:候補生たちの方はどうなっている?」
「はっ。候補生1000名は予定どおり配置についています。いつでも戦闘に入れるでしょう」
「わかった……もっとも期待はしていないがな」
まさか現役No:を仕留めることができるとは思わない。
が、候補生である以上はある程度戦えないようでは意味がない。
また、彼女らも候補生ごときに手間取るならばNoでいてもらう意味はない。
その程度で向かわせた者達だ、期待する方がどうかしている。
「No:10、彼らの除名処分をしておいてくれ」
「了解」
声と共に天井裏から気配が消えたのを確認してため息をつく。
No:6 "雷帝" サリス=サーティグエナ
No:7 "枯渇者" アルゲス=クイスェッター
No:9 "双璧僧侶" ファム=レイグナー
ファム=レイグナーはともかくNoの2人が欠けたということになる。
これでさらに書類の山が増えるだろう。
そう思うと…頭痛がしてきた。
「まったく…彼らを同じ教室にしたのは間違いだったのかもしれんな」
今さらのことでしかないが、そう思う。
もし同じ教室でなければこのような事にはならなかったのかもしれないのだから。
と、そこへ遠くから派手な音が聞こえた。
恐らくは先程出て行った元No:7だろう。
「また……書類が増えたな、これは」
だんだん遠くなる派手な音を聞きながら、そう呟いた。
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