「何やってんだ、サリス?」

 サリスの部屋に行ったら姿が見えなかったので、少し様子が気になって探していたらサリスは
旅に使うものが置いてある部屋で1人ごそごそと何かをしていた。

「あ、アル。見て分からない?」

「いや、見て分からないか? と聞かれれば分からないでもないんだが」

 そう、んなものは一目瞭然である。
 誰がどう見たって答えは一つしかない。

旅支度だな

 事実を口にする。
 サリスは旅支度をしていた。
 何でそんなことをしてるんだ? なんて聞く必要は無い、理由はだいたい分かる。

「……出て行く気か?」

 サリスはその言葉に一瞬作業する手を止めたが、本当に一瞬だけだった。
 すぐに作業に戻る。

「まあ…そんなとこ」

「あのな、ショックなのは分かるし、ここに居たくない気持ちも分かるけど! だからって出て行くことは―――」

「違うわよ」

「あ?」

「違うって言ったの」

「違うって……」

 何が違う?
 ファムちゃんがあんな事になったのが嫌だからじゃないのか?
 それ以外にここを出て行く理由が、あるのか?

「あのね、私たちってみんな孤児でしょ? アルも私も…みんな」

「ああ」

 そう、俺もサリスも孤児だ。
 逆に孤児だからここにいると言ってもいい。

「そんな中でさ、アルとカリムとファムと仲良くやって、家族みたいだなって思えて嬉しかった」

「俺だって、そうだ」

「……ありがと。でね、私ファムが世界を滅ぼすような存在って言われてもやっぱり想像できないの。
もし本当にそうだとしても、4人で、ファムを入れて、4人で過ごした日々はそんなこと関係ない日々だった」

「そうだ、な」

「だからやっぱりファムは家族なの、可愛い妹なのよ。でも、今はあんな事になっちゃった。だから、だからこそ
私はこれ以上家族を失いたくない――――――失いたくないの」

 そこでようやくサリスの出て行く理由が理解できた。

 つまりサリスは弟を助けに行くつもりなのだろう。

 弟―――カリム=ウォーレンを。

「じゃ、行くね」

 小さめの袋を1つ背負いサリスは俺の横を通り過ぎた。
 そのまま足音が聞こえなくなるまで、俺は振り向く事もできなかった。

 できるはずがない。

 俺は決断してないから。
 まだ、何も決断していないから。

「……くそっ!」

 暗くなりそうな自分を振り切るように俺は走った。

◇◇----------------------------------------------------------◇◇

「先生!」

 そのまま先生の部屋に入る。
 そこには落ち着いた様子の先生がいた。

「ノックぐらいしたらどうだNo:7?」

「ですが――――」

「No:6……サリスの事か?」

「っ!? 何で…」

「先程保管室からサリスが魔具を持ち出したと連絡が入ったからな」

「…なら! 追いかけないと!!」

 そう、追いかけないと。
 決断もできてない俺だから、せめて追いかけないといけない。
 そんな気が俺の中にあった。

「構わんよ、放っておけばいい」

 だから、その言葉は妙に道を防がれたみたいな気がしてならなかった。
 まるで、わけが分からなかった。


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