「いくらなんでも酷い挨拶ですね、先生」
俺の顔の僅か1センチ隣りの壁にめり込んだ銃弾を横目で見て言う。
先生はまぁまぁだという顔をして銃を懐にしまった。
「お前が出て行った間に腑抜けになってないか確かめただけだ。今のを少しでも避けようとしていれば
すぐさま殺すと決めていた」
さらりと怖い事を言いやがるよ、この先生は。
内心でそう思いつつ話を続ける。
「でもよく俺が生きてるのがわかりましたね」
「数日前にテレビの生中継で君の名前が出てな。最初は同名の別人かと思ったが、少し調べてみれば
君だというのがわかった。そういうことだ」
「あんた…見てたのかよ」
そりゃ行動が早いわけだ。
ああ、納得。
「んで、今更俺をどうしようってんですか?」
「冷静だな。もう少し焦っていると思ったのだが」
「覚悟しただけの話です。もちろん死ぬつもりはないですけど」
「当然だ。最高執行部は君を殺せと言うがね、私はそんな命令を聞くつもりは無い。今回君を連れ戻したのは
私の私用のためだ」
「と言いますと?」
「つまり――――――"何でも屋"としてのカリム=ウォーレンに仕事を頼みたいんだ」
明らかに嘘だとしか思えないその台詞を真顔で言ってのける先生。
でも何が嘘なのかがわからない。
今の話事態が嘘なのか、今から嘘をつくのか―――――
それが判断できない。
でも嘘だというのはわかる。
何を言うべきか――――――――
わからないでいるまま俺は先生を見つめた。
◇◇----------------------------------------------------------------------------◇◇
「へへへ〜♪」
顔がにやける。
手には1枚の小さなメモ用紙。
そこには走り書きの文字で
"決心がついたら時々会いに行く。あまり落ち込むな"
と書かれている。
「む〜〜っ…」
駄目だ…普通の顔ができない。
これを見るとどうしてもにやけちゃう。
久しぶりに見たけど絶対に忘れない字
カームの書く文字
それは私をどうしよもなくうれしくさせる。
だからちょっと困る。
急に明るくなったと周りに怪しまれてしまう、というかもう怪しまれている。
サリスは確信してすらいると思う。
コンコン
「ファムちゃん、いる?」
規則的なノック音と次いでアルの声。
「いますよ、どうぞ」
そう言うとガチャリとドアが開き、アルが姿を見せる。
「よかったまだここにいて……ってまた例のメモ?」
あう…もうバレてる。
「そんなにわかりやすい?」
「自分でわかってるだろ? それよりファムちゃんはまだ聞いてないみたいだね、その様子じゃあ」
「何が?」
「いいかいまず落ち着いて。はい、深呼吸」
スーハー すーはー
ゆっくり息を吸ってゆっくりと吐く
「落ち着いた?」
「うん。それで何?」
「カリムが今ここにいるらしい」
え?
今アルは何て――――――――
それを考える……より早く体が動く。
「って…待ったーーー!!」
「うぐっ」
後ろから首根っこをつかまれる。
でもそんなんじゃ止まれない。
だってカリムが近くにいるのに
今いかないでいつ行くのよ?!
「離してください〜」
「だから落ち着いて。今行くとマズイんだって」
「へ?」
「よく考えてみなよ。出て行って4年も経った奴が生きてたからってわざわざ連れ戻す理由がどこにある?
きっとカリムに何かさせるつもりなんだ。だとすればカリムに言うことを聞かせるために君を利用する可能性
がある。だからサリスのとこに行っててくれ、俺が様子を見てくるから」
そう言ってアルは歩いていく。
でも――――
「ちょっと待って」
「何?」
アルが振り返る。
でもそんなの納得できない―――――
そう思っているとアルがアハハと笑い出した。
「心配しなくても大丈夫だよ何とかして連れ出して合わせてあげるからさ」
「本当に?」
「ああ、だから今はサリスのとこで大人しくしてて」
「…わかった」
本当は駄々をこねてでも一緒に行きたかったけどああ言われてはこっちも従うしかない。
言うとおりサリスの部屋へと向かう事にした。
その足は自分でも不謹慎だと自覚できる程にはずんでいた。
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