「ご苦労。No:10」

 背後の闇に語りかける。
 返事はきっかり3秒後。

「いえ。ところでカリムはどうします? あの下は川です。もしかすれば生きている可能性も…」

「今はいい、それよりも結界の方はどうなっている?」

「はっ。現在ファム=レイグナーの体に5重にかけてあります」

「順調といったとこか」

 それに満足して歩き出す。
 カリム相手に両腕の骨折程度で済んだのは幸か不幸か知らぬが、生きているのなら私は私のせねばならぬ
ことを果たさねば。

 そう、すべては女神のために

 私はこの命を惜しむことなく使う。

「No:9 の空いた分は後でいい。それより今動かせるNoはいるか?」

「11と12……それと1です」

「では先に行ってNo:11と12を私の部屋に来るように言っておいてくれ」

「それはできません」

 闇夜から響くその予想もしていなかった答えに歩みを止める。

「何故だ?」

「もうすぐ別の問題が起きますので」

 別の問題?

 思わず疑問符を浮かべる。

 今ここに居るNo:10が裏切るという考えてもしょうがないこと以外で他に何の問題があるのだろうか。

 とりあえず再び歩みだしながら考える。

 そしてドアの前までやって来て意味に気づいた。

 確かに問題である。

「No:10」

「はい」

「悪いがドアを開けてくれ」

「了解」

 声の主はどこか笑いを含めながらそう答えた。

◇◇------------------------------------------------------------------------------◇◇

 ゆっくりと周りの風景が通り過ぎていく。

 でも実際にはそれらは一瞬の出来事にすぎない。

 そんな時間の感覚が不確かな中、俺は落ちている。

 落ちているから時間の感覚が不確かなのかもしれないが、そんな順序はどうでもいい。

「こんな終わり方……納得できるか……っ!!」

 銃を上空の暗闇に向ける。

「追跡の命を受けし兵よ、行けっ!!」

 唱えて、撃つ。

 銃から吐き出された弾丸はそのまま真っ直ぐ闇夜を突き進む。
 屋上で曲がることなく真っ直ぐ…真っ直ぐ。
 もちろんそんなの見えてるわけではない。
 でも分かるのだ、それが。

 そして理解した。

「能力が……使えなく……なった」

 だがそれを不思議には思わなかった。

 何せ目覚めたきっかけもあやふやな能力だ、いつ使えなくなってもおかしくない。

「だからって…今はないだろう……」

 あいつを助けるために必要だと思ったその時に無くなるなんて。

 そんなのあんまりだ。

 ファムが撃たれた時

 ああ、自分は無力だったんだと実感した。

 そして今、無力だった自分の力さえ無くしてしまった。

 無力な者がさらに無力になるという―――――

「何だよ……それ……」

 アイツを失くして

 力も失くして

 それで一体俺は何をすればいい?

 否、そんなことは分かっている。

「力が有ろうが無かろうが……あいつだけは助ける」

 そう、助けてみせる。
 だから能力が使えないことで落ち込むのはもう充分。
 今は生きる方法を考えろ。
 自分にそう命じる。

 あとわずか数秒で落下は終わる。

 落ちる先は記憶さえ確かなら川。

 なら取るべき方法など考えるまでもない――――――

「生きてろよ…いや、生きるんだ俺」

 その決意の呟きの直後、衝撃を受ける。
 次いで全身が水で包まれる感覚と水の冷たさが襲ってくる感覚。
 その次は最近よくあるなと場違いながらに思える意識が無くなる感覚
 そして最近何度目かの気絶。



第5章 〜失って気づく愚か者〜  完


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