「やはりここか」

 煙草を5本ほど吸ったあたりでようやく先生が現れた。
 思ってたよりは早い。

「てっきりサリスに時間とられて遅くなると思ったけどな」

「彼女には警察機構から直接次の仕事に向かってもらった。しばらくは帰ってこん」

 なるほど……めんどくさいってわけだ。
 まぁこっちも早く済むにこしたことはない。

「それにしてもてっきり殴りかかってくるものだとばかり思っていたが、頭を冷やしたか?」

 まさか、ありえるはずがない。
 ただ単に―――――

「分からないことがあるからだよ。それさえ無ければ今すぐ殴りかかってるさ」

 そう、分からない。
 あいつが…ファムが"世界の敵"ってのはどういうことだか、さっぱり分からない。

「この世には"女神"なる者がいる―――――」

「おい。俺はファムのことについて知りたいんだ、関係の無いことはどうでもいい」

「関係はある。カリム、"女神"は知っているな?」

「ああ。世界の根源となった人間だろ?」

 んなもんは御伽話だぞ。
 この世のもんなら名前くらいは聞いてるはずだ。

「だから御伽話とファムとがどう関係するんだよ」

「最後まで聞け、女神とは御伽話でなく実在するものだ。その昔、世の人間が知っているとおり
世界の根源となった女神は1人だった。神のようなものならばそれでもよかったが女神は元は人間だ。
1人は耐えられなかった。よって世界の根源となることで得た全知全能の能力を持って2人の生物を
創造した、それが――――――――"天王"と"魔王"」

 いきなり御伽話は御伽話ではないと言うようなことを話し始める先生。

 軽く聞き流せば冗談としかとれないだろうその話。

 なのに何故だかそれを聞き流すことができない。

 さらに話は続く―――――

「自分の側に居てくれる存在を創りだして女神は後悔した。その時に女神は自分が全知全能ではないと
知ったからだ。"天王"と"魔王"は女神の力を奪い存在した、つまり女神はこの瞬間に全知全能より下で
零知零能より上という世界の根源としては不適切な存在になってしまった。加えて2人の力量と
力を奪われた後の女神の力量では女神が負けてしまっていた。そこで女神は人1人が存在するのがやっと
の別世界を2つ創りそれぞれに2人を閉じ込めた。この時点でまた女神は零知零能に近づいた。
だが結果として2人を別世界に閉じ込めたのは失敗だった、何故だと思う?」

 質問こそしてきたが別に俺が答えることを期待していなかったらしい。
 そのまますぐに話に戻った。

「"天王"と"魔王"はその力で与えられた世界を広げたからだ。そしてその世界の主となった。
そうして領域を広げた2つの世界が"天界"と"魔界"だ。そして2つの世界が繋がりをもち、手を組んだ。
その世界に生まれた種族を喰らい力を増した2人はやがて我々の世界へと侵略を試みたが、2人の力
が強大すぎて世界を繋ぐ穴のようなものを通れなかった。そこで2人は己の体を捨て精神体となりお互い
を融合させ"天魔"となってこちらにやって来た。精神体なら穴の大きさなど関係ないからな」

「わけわからないんだけど……」

 天王だの魔王だの
天界だとか魔界だとか
しまいには天魔だとか言われても、さっぱりだ。

「別にここまではわからんでもお前には関係ない、必要なのはここからだ。
"天魔"はこちらの世界に来たのはいいが、精神体のため己が活動するための肉体が必要だった――――」

 おい、ちょっと待て。

「それも若くて存在魔力の高い肉体だ。魔力が無い肉体を得ても何もできんからな」

 それってまさか――――――――

「そういった経緯で"天魔"の肉体として選ばれたのが、ファム=レイグナーだ」

「ふざけるな…よ」

「本当のことだ」

「じゃあ何であんたはそんなことを知ってる?!」

「それは話せない。だが事情はわかったはずだな? だからこそ聞こうカリム=ウォーレン。
お前は私たちの敵になるか? それとも味方になるか?」

「いきなり何だよそりゃ」

「本当ならスラケンスが行うはずだったのだがな」

 先生の口からつい先日殺り合った人物の名が出たことに驚く。
 だが、それも一瞬ですぐに合点がいった。

「つまりアンタもスラケンスと同じ組織の人間ってか。それも女神とやらの」

「そうだ。我々は――――――」

ドンッ

 引き抜いて放った銃の弾が先生の頬をかすめる。
 そこから一筋の血が流れる。

「………どういうつもりだ?」

「どうもこうもない」

 初めから決めていたことだ。

「理由はわかったがそんなものはアンタらの理由だ」

 そして俺が今銃を放った理由は―――――

「それがどんな理由であれお前はファムを殺したんだ。だから俺はアンタたちを許さない」

「彼女は世界を滅ぼす存在になるのだぞ」

「俺にとっては妹のようなもんだ」

 いつも俺の側をついて回って。
 いつだって笑ってた大事な奴だ。

「俺はあいつを悲しませた。でもまた笑わせれると思った。なのに俺は何もしてやれないままファムを
死なせちまった」

 1語ずつ話すたびに体に火がついていくような感覚に襲われる。

「だから俺はアンタの敵になる」

「やはりそうか……では、処分させえもらう」

「やってみろ。いつまでも先生気取りでいられると思ったら大間違いだってのを教えてやる」

 そのまま後は何も言わず

 お互い走り出した。


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