先生の腰から引き抜かれたナイフが迫る。
 それを体を後ろにずらして避けて、無防備な腹に銃を撃ち込んだ。
 ハズだった―――――
だがしかし、先生はその瞬間にはまったく離れた位置に立っている。

「ったく…まためんどくさい能力か?」

 どう考えても人間の反応スピードではないが、スラケンスと仲間と言うのだから先生も
"感染者"で"覚醒者"なのだろうから何かの能力があるんだろう。
 3発先生に向かい撃つ。
 だが闇夜の中迫るそれをいともあっさりかわし、俺の眼の前に立っている。
 内心驚きつつ、先生のナイフを銃身で受け止める。

「くっ―――――」

「諦めろ。私の能力は身体能力を何倍にも跳ね上げる……今で3倍だ。
貴様では眼で追うこともできまい」

「はっ、要は3倍にしないと俺に勝てないってことだろうが…!!」

「強がりはやめておけ」

 確かに強がりだ。
 今もだんだんと俺が押されてきている。
 そんな時、気がついた

「そういやアンタ何で眼が緑じゃないんだ?」

 先生の眼は茶色だ。
 "感染者"なら緑でないと変だ。

「これでいいのか?」

 それだけ呟くと先生の眼の色がゆっくりと緑色になる。
 何でもアリか、この野郎は。
 銃身を支えていた手を離し、腰から銃弾を掴み先生の足元に転がす。

「黄の契約によりうまれし槍!」

 先生の足元から土の槍が現れ、そのまま先生を貫く。
 すぐさまその場から離れ、銃に弾を入れる。

「そういえば貴様の能力は魔法のようなものだったな」

 土の槍の先端にバランスよく立っている先生が感心したような声をだす。

「スラケンスもこれほどの能力をもった者を殺すのは残念だったろうにな」

 声は背後。
 手で頭を覆い歯を食いしばる。
 振り返っても間に合わない―――――

 ヒュッという風切音。

 左腕に走る痛み。

 そして眼の前に先生の姿。
 すかさず銃を撃つ。
 だがやはり銃弾は闇夜に消え、先生の姿も無い。

「くそ…」

 思わず呟く。
 そうしている間に次は右足に痛み。
 見ればナイフで刺されていて出血している。

「追跡の命を受けし兵よ、行け!」

 無造作に構えて発砲。
 銃弾は放たれた瞬間方向を変え、飛んでいく。
 そこからしばらく無音になる。
 数秒してキンッというナイフで銃弾を弾いたであろう音。

「本当に貴様のような者を殺すのは惜しい」

 前方に先生の姿が見える。
 自動追跡する銃弾すら弾くとなると今の先生は銃弾より速く動けるのだろう。

「手のうちようがねぇ」

「それがわかっているなら考え直せ。私とお前はある意味仲間なのだ、争う必要などあるまい」

 仲間。

 ああ、確かに俺と先生は"感染者"という点で仲間だろう。

 だ  か  ら  、  ど  う  し  た          ?

「アンタの言う事は正論ではある。だけどファムを殺した時点でそんなもの関係ない。
そんなのわかってるだろう?」

「愚かな。世界の敵にそこまで味方するか……」

「俺が味方をするのは世界の敵じゃない、ファム=レイグナーだ」

 先生はそれを聞いて、やれやれといった様子で肩をすくめた。
 だがすぐに鋭い眼つきでこちらを睨み、今まで普通に持っていたナイフを逆手で構える。

「そこがお前のお前たる所以だが、今回ばかりは私はお前を認めてやれんよ……」

「結構。もう説得だなんて考えないで……来い」

 しばらく向かい合い、合図もなしに先生の姿が消える。
 同時に俺も唱えた。

「支援の命を受けし兵よ、行け!!」


NEXT
TOPへ