時間はかけない。
一瞬で殺る――――――。
カリム=ウォーレンは戦闘能力だけで見ればけっして強くはない。
おまけに彼は珍しいことに魔力がまったく存在しない人間である。
―――――――だからこそ"覚醒者"としての能力が魔法じみているのだろうが。
それなのに彼はNoになれる人間であった。
確かに彼は戦闘能力は二流である。
だが彼は純粋に人を殺すという点において誰にも引けをとらなかった。
本人すら気づいていない、いや、私以外で気づいている者はほとんどいない。
私のみが知る事実。
それを知っているから
だからこそ―――――
私は時間はかけない。
身体能力を5倍に跳ね上げる。
視界が変わりカリムの腹部にナイフを突き刺すまでに1秒もかからない。
普通の人間には絶対に反応できない速度。
その速度でもって
カリム目掛けてナイフを滑らす。
その動作の中―――――――
私は確かに私の横を通り過ぎるカリム=ウォーレンを見た。
次いで後頭部に衝撃。
かなりの速度を出していた私の体はバランスを崩し、床を転がる。
フェンスに当たり私の体が止まるが、その頃には既に4つの銃弾が迫ってきている。
動体視力を使い、ナイフで弾き飛ばす。
「何が…起きた………」
いきなりカリムの身体能力が跳ね上がった。
それも………私以上に。
だが、いったい奴は何をした?
したことと言えばさっきの呪文――――――
「考え事か?」
眼の前から声。
同時に上から振り下ろされていた足を両腕で受け止める。
ボキッ ゴキッ
両腕が折れる。
力の入らない両腕はだらりとぶら下がり、振り下ろされた足が私の脳天を叩きつける。
「がぁ――――――――――っ!?」
それだけで意識を奪われそうになるが耐え抜く。
そのままただ逃げるために跳んで距離をとる。
落ち着け。
落ち着いて考えろ。
さっきの様子やNo:1の報告を聞いた限り奴の能力は銃弾と呪文が媒介になっていると見て
間違いないだろう。
だが奴がさっき唱えた時に銃弾は無かった。
もちろん銃弾を隠していた可能性もあるがそんな様子はなかった。
いったい――――――――
「貴様は何をしたっ!」
後ろから追いついてきたカリムに蹴りを繰り出す。
だがきれいに避けられ、代わりに腹部にカリムの拳が深くめり込む。
その決して筋肉があるわけではない腕。
それを見て思い出した
―――――「ええ、両手と両足…それに背骨に銃弾がめり込んでいるです」――――――
それは医療班の人間の何と言う名前だったかが言った言葉。
「そういうこと…か……」
つまりそういうこと。
奴の骨に銃弾がめり込んでいるのは偶然でも何でもない。
こういった時のためのものだったのだ。
吹き飛ばされ、再びフェンスに当たった体を起こしながら納得する。
ああ、どうしたことだ――――――
本当にどうしようもないのは
他でもない………私ではないか。
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