「ふう……」

 あれから数時間経ってようやく動けるようになった。
 頭の中を整理するために人気のない建物の屋上へとやって来た。
 既に辺りは真っ暗で建物の明かりくらいしか見えない。

「……本当に…死んじまったんだな」

 何度も実感しているが、それでも再認識させるために呟く。
 何故か悲しみこそすれ、最初のような怒りは湧いてこなかった。

 それは俺が自分を誤魔化そうとしているからなのか―――――

 ただ単に怒りを通り越してしまったからなのか―――――――

「どちらにせよ…まずは先生だ、先生に説明してもらわねぇとな」

 そう、すべてを知っているのは先生だけ。
 俺がこれからどう行動するかを決めるのも先生にいろいろ聞いてからでないと…

「もしかするとディスウィリウムを敵にすることになるかもな」

 別にそれが困るわけではない。
 ただめんどくさい事になるだけの話だ。

「まったく……そういうのは好きじゃないんだけど……な」

 そのまま煙草に火をつけ、口にする。
 ゆっくり吸い、ゆっくり吐く。
 ここに必ず来るだろう先生を待つため
 ゆっくり、ゆっくり―――――――――

 吐き出された煙は眼の前で広がりすぐ消える。

 それを眺め俺は待ち続けた。

◇◇---------------------------------------------------------------------------◇◇

「ティウル様」

 今しがた急ぎの用件を済ませ休憩しようとしていた私を背後から呼び止める声。
 無言で振り返るとそこには白衣を着た男性が立っている。

「医療班の人間が何のようだ?」

「何を言ってるんですか、カリム=ウォーレンの身体検査をして結果を知らせろと言ったのは
ティウル様でしょう」

 言われて思い出す。
 確かにそんな事を頼んだ覚えがある。

「そうだったな、すまない。で、どうだった?」

 男性はカルテのような物をペラペラと捲って話し始める。

「ええ、特にどこも問題ないですね。少し栄養に偏りがありますが許容範囲内ですし、
至って健康体です。ただ………」

「どうした?」

「いえ、レントゲンで妙なことがありまして」

「何だ?」

「ええ、両手と両足…それに背骨に銃弾がめり込んでいるです」

「何だと?」

 今聞いたことが信じられない。
 両手足はまだしも、背骨なんかに銃弾がめり込めば通常は何らかの身体機能に障害が出るはずだ。
 相手もこちらの言いたい事など分かりきっているのだろう、不思議そうにカルテを見ている。

「私も信じられませんよ。でも奇跡的に正常に機能しているんですよ、これが」

「そうか、で…その銃弾の摘出は?」

「無理ですね、摘出すれば逆に機能障害になるでしょう」

「わかった。ご苦労だったな、もういいぞ」

「はい。では失礼します」

 そう言って白衣の男性は去っていった。

「ふむ、そろそろカリムが動くころだな」

 今までのと何の関係もないことをふと思い出す。
 そして思い出した以上足はそちらに向かって歩き出してしまう。

「我ながらもう少し休もうとは思わないのか…」

 休もうとしていたはずなのに、また働こうとしているではないか。
 まったく、やはり今日からは今までどうりの生活とはいかないらしい。

「聞こえるか?」

 虚空に向かい呟く。
 程なくして何処からともなく声が聞こえる。

//――――――珍しいな、君が呼びかけるとは――――――//

 頭に直接叩き込まれるこの声は何度聞いても慣れない。
 スラケンスは平然としているが、俺は自然と眉をひそめてしまう。

「今からカリム=ウォーレンの説得を開始する。説得不可ならば処分する、以上だ」

//――――――できるなら殺さないで済むといいんだけどね――――――//

「まったくだが、奴は恐らく説得できんだろう。あまり期待しないほうがいい」

//――――――ファム=レイグナーを殺したりするからだ――――――//

「それはしかたあるまい"器"として成長する前にああする必要があった」

//――――――わかってる。まぁ…がんばんなよ――――――//

「ああ。終わり次第連絡する」

 声は消え

 私は歩き続ける


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